Episode02

 男は退屈な日々を過ごしていた。

 やりたいこともなく、依頼された仕事をこなしていた。

 幸か不幸か仕事はで出来たので、仕事に追われる事はなく、定時には帰宅出来た。しかし、趣味も何も無い人間が一人で家にいてもすることが無い。就寝までの時間をただ、ぼぉーとして過ごす他無い。

 退屈で仕方ない。だったら趣味の一つでも見つけたらどうだと、同僚に進言されたこともあったが、あまりにも無気力な男は行動を起こさなかった。

 趣味を探す労力を考えると体が重くなった。だったら睡眠に時間を割いた方が有意義だと、仕事と食事以外の時間は基本的に眠っていた。

 ある意味、男にとって睡眠こそが趣味と言えるものなのかもしれなかった。


棚町涼太たなまちりょうたは居るか~」

 上司の呼び出しによって男の睡眠は妨げられた。かに思えたが男は一向に起きない。

 痺れを切らした上司が耳元で叫ぶ。

「棚町! 起きろ。仕事だ!!」

 怒鳴る上司のこめかみには青筋が浮かぶ。

「ん……めんどくさい……」

 さっさと起きんかぁッ!! 鼓膜を破かんばかりの声と共に拳が飛んだ。


 ♢♢♢


「頭、痛い」

「そりゃそうでしょ。先輩普通に殴られてましたから」

 苦痛を訴える涼太をあしらいながら、後輩である七咲綾人ななさきあやとは依頼人のプロフィールに目を通していた。


「先輩。この依頼人すごいエリートですよ。経歴だけどんな企業にでも受かりそうです。あ、歳が歳だから厳しいか。アハハハ――」

「どうでもいい。眠たい」

「先輩は寝すぎなんですよ。睡眠もとりすぎたら身体によくないですよ」

「永遠に眠っていたい……」

「じゃあ、永眠すればその願いも叶えられますよ」

「死ぬの――」

「「めんどくさい」」

「先輩の考えることなんて手に取るように判りますよ。究極のめんどくさがりですからね」


 仕事はできるのに出世意欲が微塵も感じられない涼太に、綾人は懐いていた。

 正確には、先輩後輩という関係性をあまり気にしなくてもいいのが楽だっただけなのだが。楽をしたいと言う発想に至るあたり、二人はどこか似たところがあるのかもしれない。


 そんな二人のモットーは「最短スピード解決! ※ただし楽して」である。


 今回の依頼は論文のお手伝いねぇ……。口角が僅かに上がる。イージーだな。

「着きましたよ先輩」

 我が国最難関にして、最高学府――東大こと東帝大学。

「今日も、ちゃちゃっとお仕事片付けましょうか」

「そうだな……とっとと帰って寝たい……」


 とことんやる気のない二人は今日もイージー(?)な依頼をこなす?。

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統計世界 小暮悠斗 @romance

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