セカンドライフ -入れ替わった二人の物語-

@bentou

第1話 死後の世界で出会った死神

僕は死んだ。


 学校の屋上から飛び降りて頭を強打した覚えがある。

 僕は酷いいじめを受けていた。

 ストレス解消という理由でお腹を殴られたり、机に死ねやきもいという落書きが書かれていたり、トイレに呼び出され女子にモップを頭に押し付けられたり……とにかく、考えただけで辛くなってくるばかりだ。

 クラスに友達なんていなくて味方も一人もいないという地獄の状況だった。

 担任の先生も、生徒に対して逆らえないのかいじめの現場を目撃しても何も言わず無視していた。それどころか、僕には生徒と一緒にいじめを楽しんでいるように思えた。


 でも、僕はこんなに辛くても家族には相談する気は起きなかった。

 余計な迷惑をかけたくないというのが正直な理由だったけど、本当はいじめられているということを家族に知られたくない。それが一番大きな理由だったのかもしれない。僕の家族は優しくて、何があっても僕の言うことを信じてくれる親だった。

 だから、本当のことを言えなかった僕は帰るたびに自分の胸が苦しくなった。


 だけど、そんな思いも今日で終わり。

 お母さんやお父さんや悪いけど僕はの人生はここで終わりということだけは伝えておくよ。この、僕の言葉は二人には届かないかもしれないけど、本当にごめん。


 そして、さよなら。


 ◆◆◆


 ここはどこ?

 僕は目を開けるとそこは真っ白な白い空間が広がっていた。

 地面はしっかりとあるようで、色は真っ白だけどしっかりと立ち上がることが出来た。だけど、周りを見渡しても本当に何もなくて、ここがどんな場所なのか判断することが出来なかった。

 とりあえず、僕はこの真っ白なこの空間を歩いてみることにした。

 それにしても、あの学校の屋上から飛び降りた僕は死んだはず。それなのに、意識ははっきりとしているし、何よりもこうして体を動かすことが出来ている。

 死んだら、天国か地獄どちらかに行くということを何回も聞いていたけど、僕の場合は地獄かな? 当たり前だよね、どんな理由であっても自分から親からもらった命を捨てた僕。


 こんな、僕地獄に落ちて当たり前だ。

 急に僕は自分のしたことの罪の重さに気付いてしまう。

 その場にしゃがみ込みとても胸が苦しくなった。

 どうして? どうして、僕はいじめられているのに周りに助けを求めなかった。僕にも助けてくれる人がいたと思うのに……。

 どうしようもない弱虫で気が弱い自分の情けなさに対して波が溢れてきた。

 僕は悲しみのあまりその場から動くことが出来なかった。


 あのとき、少しでも僕は踏み出していれば、一歩でもいいから勇気をもって踏み出していれば……変わったかもしれない。


 やり直したい、どんな形でもいいから僕の人生を。

 今度は本当に後悔しないように!


 僕は自分の涙で顔が見えなくなる。

 しかし、突然僕の目の前に赤い光が閃光のようにまばゆく放つ。

 あまりの眩しさに思わず僕は手で目を隠すが、次の瞬間その赤い光から人が現れた。あまりの突然のことに僕は驚きのあまり声が出なかった。

 泣くことをやめて、手で涙を拭いて光の中から現れた人のことを僕はじっと見つめていた。


 自分もこうやってこの場所に来たのか? それにしても、この人は目を閉じているけど生きているよね? し、死んでいないよね。

 僕は目の前の人のことをとても心配していた。

 髪の色は茶色に染めていて、少し長いというのが特徴と言える。後は、少なくとも僕よりは男らしくてかっこいい顔立ちをしている。背も僕より高い。

 だけど、僕から見た印象は不良だ。


 うう、僕の学校にもいたけど頭のいい不良ほどタチの悪い人はいない。

 この人がどんな人かは分からないけど、僕は不良というのはすぐに暴力振るう人だと思っている。偏見かもしれないけどね。


「うう、いって……ここは?」

「あ、お、起きました?」


 よ、よかった。やっぱり生きてたんだね。すると、光の中から現れた不良の人は目を覚ました。僕は、意識を取り戻してくれたことに嬉しいと思いながらも、この後どうやって会話を繋いでいこうかと考えていた。

 その、不良の人は僕の存在に気付いたようで鋭い目つきでこちらを見つめてきた。


「ああ? 誰だよ、お前」

「あ、あの! 僕は……」

「もしかして、お前さ、俺のこと怖がってるだろ?」


 やばい、気付かれてしまった。僕は、殴られと思い自分のことを守る態勢に入る。こういう場合は殴られると決まっている。

 自分の身は自分で守らないと……誰も僕のことなんて助けてくれないんだから。

 しかし、そんな僕の行動に対して不良の人は呆れた顔で僕を見ながらこんなことを言った。


「何やってるの? お前……?」

「え、いやだって殴られると思いまして」

「いや、なんでだよ」

「……僕があなたのことをイライラさせたから」


 僕の言葉に目の前の不良の人は唖然としながらその場で黙り込んでしまった。

 あれ? なんか僕おかしいこと言ったかな?


 ◆◆◆


 とりあえず、僕たちは戸惑いながらもお互いのことを話し合うことにした。

 この不良の人の名前は永井健人ながいけんとという名前らしい。

 そして、死因は交通事故とのこと。

 僕とは違って自分から死んだというわけではない。

 永井さんが言った後僕も自分の死因の原因を伝えた。


「自殺だと!? どうしてだ」

「……学校でいじめられてたんです、それに耐えられなくなって、学校の屋上から飛び降りてしまって」

「いじめか、どうしていじめているやつを殴らなかった?」

「か、簡単に言わないで下さいよ! こんな弱虫な僕じゃ無理に決まってます」

「お前、それでも男かよ」

「永井さんには分かりませんよ! 僕の気持ちなんて……どうせ、何も苦労もない人生を送ってきたんでしょ?」


 僕は永井さんの意見に反論する。いつもなら、相手の意見に反論することなど絶対しないこと。だけど、生きているのか死んでいるのか分からないということなので、僕は永井さんに自分の言いたいことを伝えた。

 しかし、永井さんはそんな僕のことを睨みつけながらこんなことを言ってきた。


「俺が何も苦労もない人生を送ってきただと? ふざけるな! 何も苦労してない人生をおくっているやつなんて……いるわけないだろ」

「な、永井さん?」


 どうやら、僕は永井さんの逆鱗に触れてしまったようだ。

 僕が言った意見は軽率だった。

 考えてみればそうだ。人というのは誰もが心の中に大きな闇を抱えている。

 それは誰にも言えないことが多い。


 こうした、闇が自分で自分を苦しめていってしまう。

 きっと永井さんも人には言えない大きな闇と戦っていたのだろう。

 僕がそんなことを思っているときだった。


「ばぁ!」

「え……? う、うわわわわわわ!」

「なぁ! なんだよ、こいつ?」


 僕たちの前に現れたのは大きな鎌を持った謎の女の人。

 しかも、背中には黒い羽が生えており、その二枚の羽を上手く使いながら空中に浮かんでいた。真っ白なこの場とは対照的にこの女の人が着ている黒い服に目を引く。だが、だらしない服装で、ボロボロの黒の布切れをそのまま着ているような印象だった。

 僕は慌てふためながら、後ろに下がったその理由。僕にはこの女の人が、アニメや漫画で出てくる死神に見えてしまったからである。


「あはは、そんなに驚かなくていいわよ! 私は死神だけどあなた達の命を奪いにわけではないから」

「……あんたは何者だ? それで、目的はなんなんだ?」


 こんなときでも永井さんはとても冷静だった。僕と同じ高校生なのに。驚きを隠せない僕とは対照的な反応であった。

 そんな永井さんの対応に死神と名乗っている女の人もつまらないようで。


「永井健人君だったかな? あなたはそこの城野優希君と違って死神の私を前にしても冷静ね……大した肝が座っているわね」

「驚いているさ、だけど、見た目だけで判断するのはよくないと思ってな……俺は、人間の皮を被った魔物をこの目で見てきたからな」

「なるほど、まあいいわ! あなたの質問である、なぜ……私がここに現れたのか説明してあげる」


 僕はまだ心臓がバクバクとしていたが、少し落ち着きを取り戻し立ち上がる。

 そして、死神である女の人は僕たち二人を舐めるように見ながらこう言った。


「あなた達は入れ替わって第二の人生を送って貰うわ……そして、それぞれの抱えている問題を解決するっていうことなんだけどどう?」

「は?」

「入れ替わる?」

「そう! こちらで勝手に調べさせて貰ったけど、城野君はいじめが原因で自殺……そして、永井君は家庭環境がとても複雑で家族からは要らない存在とされている、まあ、永井君の場合は本当にたまたま交通事故によって死んでしまったらしいわね」


 僕はこの死神の女の人が何を言っているのか分からなかった。入れ替わる? 問題を解決? そんなこと可能なの? いや、でも、この死神の女の人が嘘でこんなこと言ってようには思えない。

 それにしても、永井さんにも心の中の闇を抱えていたのか。さっきは悪いこと言ってしまった。だから、永井さんは僕にあんなことを言ったのか。


「待てよ、俺たちのことを入れ替えると言ったが、そんなこと可能なのかよ?」

「この私の鎌……判別の鎌は斬られた者と魂を入れ替える効果があるのよ、この鎌であなた達の魂は入れ替わり、それぞれの人生を送ってことが可能となる」

「ほんとなのか、それは」

「嘘なんて言わないわよ! だけど、入れ替わったあなた達は二度と元には戻れない! あなた達はもう一度ゼロの状態からやり直す、それが、必ずしもいい方向に変わるとは限らない、もっと結果は悪くなるかもしれない……それでもいいと言うのなら、私はこの鎌であなた達を斬ることするわ」


 ゼロからやり直す。そして、入れ替わった僕たちは二度と自分に戻ることは出来ない。

 そして、僕たちは入れ替わったても必ずしもいい結果になるとは限らない。

 様々な制約の中で僕たちはきつい選択を迫られた。このまま僕は何も変えられないままこのまま死ぬか、僅かな可能性を信じて目の前の永井さんと入れ替わるか。

 僕は迷った。今まで自分で決めたことがなかった僕にとっていきなりこんなこと決められるはずがなかった。


 だけど、迷っている僕に構うことなく永井さんはすぐに決断した。


「分かった、このまま迷っていても仕方がない! 俺は、こいつと入れ替わる」

「永井君はそれでいいのね……さて、城野君はどうするの?」


 永井さんは覚悟を決めたようでその瞳はとても真剣だった。

 そうか、永井さんも変えたいんだ。

 だから、リスクのあるこの死神の女の人の話を信じて、決断しているんだ。

 僕は、さっきもう一度人生をやり直したいと強く願っていた。そのせっかくのチャンスが僕の目の前に転がり込んできている。

 迷っていた僕はばかだ。こんなの答えは一つしかない。


「分かりました、僕も永井さんと同じ意見です! あなたの言う通り、もう一度ゼロからやり直します」

「分かったわ、あなた達の勇気あるその決断がいい方向に転がるよう……私は、心から願っているわ」


 すると、死神の女の人は持っている大きな鎌で僕と永井さんを斬りつけた。

 範囲は大きく、僕と永井さんは簡単に体を斬り裂かれる。その、瞬間に僕の意識はなくなった。

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