2-6 水辺に潜む闇

 カラサスの街自体が砂漠地帯の最北端に位置していたため、1時間も歩けば西側も東側もすぐに砂漠地帯を抜けれるらしく、急いだ甲斐もあって、日が昇りきる前には砂漠地帯を抜けれた。

 グランドリス大陸の東側はいくつかの巨大な段差で構成された丘陵地帯で、故郷の山間に見受けられた棚田を巨大化させたような地形だった。

 特に特徴的だったのが奥に見える巨大な山岳地帯と、そこから流れてきている川が分岐し、大きな段差から流れ落ちては、いくつもの滝が乱立している状態だ。

 西側の大平原が壮大なら、東側は雄大という漢字が似合うと思ってしまった。

 奥に見える山岳地帯はかつて国だったウィンダリア地区であり、数多くのフェザニスの故郷である。標高も2000メルトは序の口らしく、旧都フェザーブルグの標高は3500メルトぐらいとネフェさんが教えてくれた。

「こう見ると、私って本当に高いところに住んでたんですね」

 そうポツリとつぶやいたネフェさんの横顔は、なんだか嬉しそうな口元とどことなく悲しそうな瞳という二つの雰囲気を出していた。

 一つは帰ってこれたという喜びなんだと思うけど、悲しそうにしているのは何だろう……。気のせいであって欲しいと思った。

(外側から見た故郷……)

 先日の晩に思い知らされてから、時々そのことを考えるようになった。単に自分が無学なだけだったのだろうかと思いふけったりもしたけど、

「自分のことも含めて、物事は外側から見てみないと分からないものさ」

「時間と共に徐々に知っていけばいいと思いますよ」

と、気づいたトールとネフェさんが教えてくれた。

 それは誰でも、どこででも一緒だと。現にネフェさんは今知った状態と言える。

 みんなそうやって、経験値を積み上げていくのだなと思った。

「……」

 隣に立っていたルカが口元を手で押さえながら、小さく呻いていた。

「やっぱこれがそう?」

 そう言って鼻をヒクヒクさせていたトールはあたりをぐるりと見渡した後、東の方角を睨みつけていた。

「はい……。とても薄っすらで、私たちかトールさんみたいに敏感な人じゃないと気づかない程度ですけど」

 ルカにとっては明らかな違和感となっているようだ。後からどんなものか聞いてみたら、不死系特有の生ものが腐った臭いをもっと臭くしたものらしく、不死系のモンスターがいる場所でしか発生しないものという。トールは当然ガルムスとしての鼻で捕らえている。

「ココまできているということは、相当なヤーツ?」

「どうでしょう……もしくは広範囲に広がりすぎてて、数が多いだけなのかも、です」

「了解。どっちもどっちだけど、前者じゃないことを祈りたいねー」

 と、本人はケラケラ笑っている様子だが、耳はピンっとそそり立ち、普段はだらりとしている尻尾も垂れているのは同じだが、どこか力が入っている。

 ルカがしかめっ面をした時点で改めて武器は持ち直しているし、そんな二人を見てかダインもネフェさんも警戒の色を強めた。

 しかし、そんな心配をよそに昼間は大平原のときのように敵襲が来ることもなく、平和な急ぎ足の散歩となり、日も暮れはじめた頃には予定よりも早く野営地に到着した。

 その場所は最終目的地であるキスカの森の入口にあり、街道から少し入ったところに以前誰かが使っていた焚き火の跡があった。

 この場所自体が森のそばのため周りは木々が多く、隣はちょっとした林のような状態だった。林の奥からは水の流れるような音がしており、トールが言っていた通り近くに水があるようだ。

「さてと、まずは焚き火を起こさないとね」

 そういってトールが取り出したのは豆炭だった。握りこぶしより少し小さく、普通の炭に比べて持ち運びにやすさと保管しやすさを兼ねた旅のお供だ。

「ダイン、木はその辺にあるだろうから拾ってきてくれ。カキョウちゃんはこれ頼める?」

 ケープを取り外してるときに、彼が豆炭を渡してきた。

 これに着火して、ダインが集めてきてくれた薪をくべて、燃焼させる感じだろう。確か先日までトールが使っていた火打石があるはずなので、それを借りなければいけないし、豆炭を燃焼させる為の着火材もまた必要である。

「いいけど、道具はどこ?」

「ん? カキョウちゃんはホーンドだから、炎魔法でいいじゃないかい?」

 ホーンドの大半が住んでいるコウエン国は火山地帯であるため、生まれながらにして大量の炎のマナにさらされながら生きている。おかげで、ホーンドは種族の性質として炎の魔法を得意とし、多くの人が自在に操っている。この程度なら他国においても一般常識らしい。

 炎の魔法を当て続けることで着火材も不要な場面であるため、トールもそのつもりで話しているのは分かっている。でも……。

「あー……その、ごめん、アタシ……魔法は一切使えないんだ」

 実は幼少のころから、周りの人が扱えるような魔法を発動させることは出来なかった。

 魔力自体は僅かだけど体内にあるが、マナのほうが反応してくれない。一般人でも使えるような魔法だけではなく、念じるだけで発動するといわれる簡単な炎の魔法すら出せない。

 これは炎の民を語るホーンドとして難有りである。

「原因はたぶん、角のせいだと思う」

 ホーンドにとっての角は力の象徴で本人の力量を示すものであり、成長と共に自然と大きく育っていく。同世代のホーンドの角は成人の手の平のおよそ縦2つ分ぐらいの大きさであり、アタシの角は手の平1つ分よりも小さい。言ってしまえば発育不足ということになる。

 水道に例えれば、貯蔵量も少なければ、蛇口も小さく、出る水の受け止め先も拒否されてる状態である。

「といわけで、魔法に関する事はいろいろと終わってるの。ごめん……」

「カキョウちゃんが謝る必要はないって。そういう体質ってよくあるから」

 トールはそう言ってくれるけど、なんだか申し訳ないと気持ちは抜けない。

 彼はダインを伴って、着火材になりそうなものを探しに行こうとしている。自分も探しに行こう。

「……待ってください」

 口元に手を当てながら、組まれただけの焚き火の場所を見つめながら、ネフェさんはみんなを呼び止めた。

「カキョウさんがホーンドである以上、血は必ず炎と反応する性質があるために、血を媒介にして外部から着火してあげれば、燃焼用油に似た燃焼効果があるのです……

 あ、あ! もちろん痛いやり方なので、こんな方法もあるとだけ……ああ、あああ!」

(嗚呼、何でこれを忘れていたんだろう)

 ネフェさんの心配をよそに、すかさず腰にさしていた刀をほんの少し引き出すと、剥き出しになった刃に人差し指の腹をあてがって切り傷を作り、滲み出てきた血を豆炭の1つにたらすと、察したたトールが準備していた火打石を使った。

 思っていた以上に勢いよく点火。「これなら紙とかでやるより便利じゃん!」と言ったら、指にヒールをかけてるルカが「ま、毎回血を出すんですか!?」と血相を変えて、ほんのり涙目になりながら言ってきた。

「冗談だよ冗談。ルカも大げさだなぁ」

「大げさでも! 血は、傷は、ダメです!」

ルカの目はこっちを刺し殺すかのように、鋭く訴えかける眼差しだった。

「ご、ごめん……」

 半分、冗談のつもりではあったけど、もう半分は……。『ホーンド』として誰かの役に立つならとも考えていたために、ルカの表情は少し胸に刺さった。

 たぶん、何か昔あったのかもしれない。でも、今は聴かないでおこうと思う。無理に今聞いたとしても、心の傷を抉るだけのような気がするし、もう少し落ち着いた時にでもいいかな。

「わ、私こそ……大声、ごめんなさい……でも、血は……本当に止めてください」

「うん、わかった」

 瞳はまだ涙をためたように潤んでいるものの、ルカの表情はゆくりと普段の可愛らしいものへと変化していた。

 見ていたほかの3人も、ルカの落ち着いてきた様子から、緊張から解放されたようで表情が和らいでいった。

「トールさん、もしよろしければ、私たち先に水浴びをしてきてもよろしいでしょうか?」

 そう、ネフェさんが持ち出すまで忘れそうになっていた、いわば本題。私たちはただの野宿をするのではなく、水浴びができる野宿をするために今日は歩調の速い行軍をしてきた。

 思い出した途端、体中が汗ばんでいるような気持ちの悪い感覚が広がっていった。

 トールはにこやかに快諾し、今点火した焚き火から分けられた松明を渡してきた。

 松明を受け取ると、アタシ達は足早に水の流れる音がする奥へと分け入った。



◇◇◇



「さて、ダイン。女性陣が行ってしまったわけだけど、何かお悩みかい?」

 足早に水場へと向かったカキョウたちの背中を見送った後、トールは何故か頬を赤らめながら気色の悪い笑みを浮かべ、こちらに振り向いてきた。

「え、あ、は、はあ?」

 そのあまりにも気色の悪い表情に心も体も後ずさりをして、まともに言葉を発せなかった。

「いやさ、さっきから黙って、カキョウちゃん見てたみたいだけど、なんだー? お兄さんに言ってごらんなさい。ほれほーれ?」

 何やら期待の眼差しを向けられているようにも感じるが、俺の今の考えていることがそんなに期待するような内容とは到底思えなかった。

「いやその……カキョウの力についてなんだが、グローバスと戦っているとき彼女の赤白く光った刀は「魔力で刀身を加熱させた」と言っていたが、アレは付与系の魔法とは違うものなのかと思って……」

 トールは内容を聞くなり、表情が一気に気色悪かった笑みから明らかな呆れと侮蔑のような眼差しを持って「お前ってホント生真面目なんだな」と吐き捨てつつ、調理用支柱を組みだした。組み終えると鍋に手持ちの水を注ぎ、荷物の中から瓶を取り出した。瓶の中身はペースト状になった黄色い物体で、鍋の水に溶かしはじめた。

「まぁ……さっきの彼女の話が本当なら、あの刀は特殊術器ってことだろうさ」

 トールの性別や自分の興味への態度の差が激しいのは気に障るところではあるが、どんな問いにも自分なりの回答を必ず返してくるあたり、態度以上に真面目なヒトなんだと思うようになった。

 特殊術器とはマジックアイテムなどと呼ばれる、既に何らかの効果を持った武器防具や道具の一つであり、持ち主の魔力を受けることで刻まれた術式の効果を発揮するものである。

 赤白く光った刃とカキョウの言葉から、刻まれている術式は炎系統の一つ『熱』を発する術式と考えられるということだ。

「では、あくまでマナが直接反応しない……『魔法』がダメであって、何か術式を通せばそれに沿った『魔術』を行うことはできるということか」

 魔法とは自然に漂うマナに対し、呪文という反応語を唱えることで、任意に自然現象や化学反応を引き起こさせるものである、能動的な現象である。

 変わって魔術とは、図式化した呪文(=術式)を物に刻み込むことで、唱えるという手順を飛ばして結果である魔法を発生させる技術である。

「だけど、魔力には種族ごとや個人差での性質の違いがあるから、本人が扱える術式はそれなりに限られてくる。そのため特殊術器に刻まれる術式は、持ち主に合わせたものであり、最適化されている。だから他の特殊術器を渡したところで、自分の性質に合わなければ使えなかったりする。だから、一概に彼女には魔術を使ってもらえば良いというわけにはいかない」

 もっとも、無理矢理魔力を流し込むことで使えなくもないが、そうなれば術式が暴走したりして、自分たちに何か危害が発生したり、術式や刀が損害を受けて使い物にならなくなるという危険性が生じる。

「なるほど……本人に合わせた専用の物……。カキョウにとってみれば義手や義足と同じような物ということか」

「そういうことだな。さっきの話しぶりやよく刀をなでているあたり、結構強いコンプレックスとなっているんじゃないかな」

 彼女が刀の柄をなでる姿は、確かに見たことがある。

 それと同じく、はじめて彼女とで会った時のことを思い出した。

 刀に興味を示したときに彼女は柄をやさしくなでると、それを「相棒」と言っていた。

 そのときの力強い瞳からは、まだ実践で使ったことの無いことへの好奇心と、相棒に対する絶対の信頼が込められていたように感じた。

(俺の場合はこいつなのだろうか?)

 まだ下ろしていなかった背中の大剣のベルトに手をかけた。

 彼女のとは違い、あの国でなら何所でも手に入る、ごく普通のブロードソードであるはず。

だからこそ柄は普通の剣と違い、完全に握りきることができない。

 自分に合った物を用意してもらうことは、きっと簡単なことだっただろう。

 だが引き取られた当時の自分は、幼いながらも持ち合わせたプライドがそれを許さなかったのだろう。

 話しも自然と終わりを迎えたらしく、自分は背負っていた大剣をそばの木に立てかけた。

「……なぁ、ダイン。お前って本当、アンバランスだよな」

 不意にトールから投げかけられた言葉の内容に理解できず、再び変な声で返事をしてしまった。彼は鍋の中の黄色い液体をゆっくりかき混ぜながら、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「俺も事前に箱入り息子で貴族のボンボンに近いヤツって聞かされていし、本当にただのボンボンならそういう世間知らずってのはあると思う。

 だが、お前はどうだ? 世間知らずにしては妙に常識的な行動はとる。でも常識を知らない。戦えばただの護身術というより戦闘技術に近いし、妙に肝が据わっていたり、我侭言わないし、野宿も平気。なのに小奇麗でちょっと高そうな鎧とコート着てさ」

 最もな疑問であるだろうし、それは自分も自覚している。

 ギルドの先輩たちの服装を見ても、自分の物は少々場違いな気がしていた。ただ、街中で歩いているだけなら、そこまで問題はない様子だったので、しばらくこのままでいいかとは思っている。

 少なくともグラフ殿が用意したものではないことが、コートの裏地や鎧の裏に施されている細工などから分かるようになっている。

 あのヒトなりに無理にバランスを取ろうとした結果なのか、市井を知らないが故なのかは分からない。

 旅向き、戦闘向きというなら、むしろトールのカッターシャツに金属の肩パッドがついたベスト、ベストに合わせた黒いスラックスという、雑誌で見たカジュアルと分類する服装であり、正直どちらにも当てはまらないように見える。もっともカッターシャツの下には俺の鎧の腹部と同じようにゴム製のベストを着ており、見た目以上の防御力は持っている。

 ともあれ、トールから見れば謎の風貌ということになり、俺からしてみれば全て勝手に用意されたものだからということになる。

「なぁ、マジで何者なんだ?」

 トールの表情をなんと読んでいいのか分からない。凝視してる半目は観察ではあるんだろうが、興味というより疑いのようでもありながらも、そこまで鋭いとは思わず、ただジーッとこっちを見てる。

「そう、だな……何者かと言われれば、様々な物事から切り離され、捨てられた者だとしか言いようがない。それぐらい、俺自身が何者なのか知りたいぐらい、今は自分の立ち位置を探しているとしか」

「ほう? なんか、名実共に箱詰めにさてきたって感じだねぇ」

「それで合ってる。その上で突然放り投げられ、今はその流れに乗っている状態だ」

「お前も変な体験をしてきたんだな……。まぁ、これから少しずつ学んでいけばいいさ。根本は問題無さそうだから、すぐに吸収できるさ」

 そういって、沸騰した黄色い液体をゆっくりとかき混ぜるトールの横顔は、なぜか微笑んでいる。

 因みに臭いでようやくわかったが、トールがかき混ぜている黄色い液体はコーンポタージュだった。瓶につまっていたのはペースト状に加工されたコーンポタージュの元であり、この後固いパンをちぎって投入し、少し煮込めば夕飯の完成ということだ。

「ところでさ、お前って料理とか家事はできるのか?」

「……実をいうと料理、洗濯はやったことがない。掃除は自分の部屋程度で……」


「「「キャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」


「「!?」」

 今の叫びが水浴びに行った女性陣のものだ。

 自分は立てかけた大剣を手に取り先に駆け出した、トールはとっさに鍋を火から遠ざけて、自らの傍らにおいてあったバルディッシュを担いで、俺の後を追う形になった。



「どうした!」

 飛び出していった先には、幅が20メルトぐらいの中規模な川のカーブ部分で、丘の上から流れ着いた丸い小石で出来た河原であり……、

「うっひょい!!!」

 すぐに追いついたトールが鼻の下を全力で伸ばすほどの、ヒトによっては天国が広がっていた。

 水浴びをしていたであろう3人は、当然川の中で一糸纏わぬ姿であり、叫ぶ現況となった対岸のモノに対し、一人は魔法で牽制し、一人は刀を構えて向こうの出方を伺い、一人はオロオロとしていた。

「きゃ!」

 水面から半身を出していたルカはさっと水の中に浸かり、こちらに対して体を見せないようにしていた。一瞬ではあったが、他の二人に比べて全てが小ぶりで華奢という言葉が似合うほど細く、まだ少女という感じだった。

「あ! ア、ア、アイスニードル!」

 ネフェさんはこちらに気付くと、まずは対岸のモノに純人族(ホミノス)の成人男性の太もも程の太さの氷柱を打ち込んだところで、翼で全身を包むように肌色を隠した。

 ほとんどが翼で見えないものの隙間から見えた臀部は、最初の発見した時に見えた見事な胸部に劣らぬモノであり、まさしく大人の女性の身体と思った。

「ちょっ!? 来るの早すぎ!!!」

 カキョウはルカとネフェさんの前に立ち、刀を構えながら対岸のモノの侵攻に対応しようとしていたが、こちらに気付いて空いているほうの腕で、サッと胸を隠して半身を水の中へ。

 全体的に先の二人の中間ぐらいではあるものの、胸部は絞める服装から解き放たれたのか、普段の大きさよりも少々大きめに映り、弾力のある仕上がりを見せている。四肢は前衛を務めているだけあって引き締まりつつ、腹部から腰にかけてのくびれの少ない緩やかなカーブが、一層柔らかそうな素肌を髣髴させた。

 皆、昇りたての月明かりによって着飾られた素肌はうつくしく、とりわけ一番最後に水に入ったカキョウの身体は脳裏に焼きついてしまっ……


 カチ。


 何かがはまる音。

 変にたぎった神経が、急激に冷却されていく。

 グローバスと戦ったあの時と同じ感覚だ。

 まるで体感時間と意識が切り離され、以前は意識より時間が選考しているように感じながらも、身体は既に動いている状況だったが、今は意識の速さが時間に勝っているように、周囲がゆっくりに見える。

 ――チリ、ヂリ。

 対岸の、ゆっくりと川に下りてきている目標物に目をやった。

 ソレはただれた肉片がまだ所々に残っている骸骨のアンデッド――スケルトンだった。数は確認できるだけで4体。そのうちの一番先頭にいたヤツの胸に、ネフェさんが放った氷柱が突き刺さっている。

 だが、アンデッドが動く為の核となる頭部が破壊できていない以上、彼らはどんな様相に成り果てようと動き続けてしまう。ネフェさんの場合は、自分たちに姿を見られようとしていたので、狙いが反れてしまったようである。

――チギレ、チギレ。

 スケルトンたちをゆっくりと見据えた。

 (中心に入り込めれば簡単か?)

 密集とは言えないが、4体の中心で剣を振り回せば、悠に全てのスケルトンの頭を狙えるぐらいの集まり具合ではある。

――オマエタチニモクレテヤロウ。

 無視し続けてはいるが、何やら言葉が聞こえている。

 気づけば、俺は宙に飛び上がり、振り上がっている剣を4体の中心に叩き込もうとしてる。

 (ゆっくりな感覚だったはず……)

 奇妙な感覚に戸惑いながらも、状況の変化は待ってはくれない。

 掲げられた剣には、体内の魔力が集中している。

 だがそれは自分の意思とは関係なく、正しくはり吸い上げられてるという感じだった。

 地面が近づく。飛び上がっている俺にスケルトンたちが気づいたが、時既に遅く、剣に集められた魔力が容赦なく中心へ叩きつけられた。


カチ。


 感覚が元に戻るタイミングは最悪であった。

 接地とともに発生した爆発の衝撃波が、感覚が戻った直後の自分にも襲いかかり、対処する間もなく、再び宙へ舞うはめになった。

 自分の魔力で発生させた爆発だから、ダメージこそないものの、自分で起こした行動であるはずながら、それが予期せぬ出来事となり、宙から水面へ吸い込まれていく自分がなんとも情けない。

 (これはまずいな)

 今と前回はまだ、自分の起こそうと思っていた選択肢の1つだったからいいものだが、いつか『自分の用意した選択肢以外の行動』を取り始めたら……。

 そんなことを考えながら、大きな音を立てつつ、膝ぐらいの深さの浅瀬に着水し、木々の合間から見える夜空を見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る