第22話

 祓い子ではなくなった、色を失い、声も音も失ったが、いつの間にか涙も失っていたのだと、こうなって気付いたヒミは、ぼんやりとしたまま数日を過ごした。

 はじめのうちはトキワやキナリがなんだかんだと近くにくっついていた。感情を見せないヒミに焦れたトキワがヒミの心を読もうとしたが、感情の一端すら掴めなくなっていた。それでも、何か伝えたいことがあれば語りかけてくるだろうと待っていたが、日に日に壁は厚くなるようだ。

 アオイやハナは、話を聞いて神里に来ていた椿と凪によって、ヒミとは会わないようにされていた。

「ヒミがこれからどうするのかわからないけど、アオイとハナは今は会わない方が良いと思う。…どうなるかわからないから。ね、心配だろうけど、少し待ってあげて。」

「どうして、私とアオイはダメなんですか…?」

「アオイはわかるか?」

「…わかりません。」

「じゃあ、わからないままでいい。とにかく会うな。いいな?」

「はい。」



「なあ、ヒミー…お前今何考えてるんだよ…」

 机に突っ伏しながら、トキワは何度目かわからない台詞を吐いた。

 横顔を向けているヒミだが、トキワが何事かをずっと言い続けているのはわかっていた。ただ、自分でもどうしたら良いのかわからないまま、窓から灰色の空を見上げていた。

 暫く物音を立てないヒミとトキワだけの空間に、キナリが駆け込んできた。

「トキワ、ちょっと来て、大変なの。」

 トキワが立ち上がったことで机が動いてヒミの腕に触れた。それから、ドアが閉まって空気の動きが止まった。

 一人になったのだと理解したヒミは、ゆっくりと立ち上がった。



「なんだよ、大変なことって。」

「いいから、あの人、見て。」

「は?」

 二人の目線の先にはどことなく昔のヒミと似た女が岩戸の前に立っていた。顔立ちが似ているわけではないが、纏う雰囲気がそう思わせた。そして何より、右の瞳が真っ赤だった。

「祓い子…?」

「ヒミの後任ってこと?」

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