第21話

 芙蓉のもとへ行こうと岩戸の前に立ったヒミだったが、岩戸を開こうとして途方にくれた。

 開かない。

 そこへ行きたいと何度願っても、岩戸は開かないばかりか冷たく拒絶しているようだ。

 押しても撫でても引っ掻いても、傷ひとつつけられない。

 しばらくそうしていたが、ヒミは諦めて、とにかくこの里を出ていく準備をしなければと、踵を返した。穢れを祓うことができないならこの神里に居るわけにはいかない。かといって、人里に帰る場所もない。コウや芙蓉の所にはもう行くことができない。

 そう思い至って、ヒミは口角を上げた。

 こんなにも、何も祓えなくなった自分は存在価値がないのだ。



  トキワはヒミの瞳を見つけて言葉を失った。

「…なんで、今度は、赤、どこに落として来たんだよ…お前、次は心まで落とすなんてこと、無いよな…?」

トキワの言葉を遠くのことのように聞いていたヒミの耳に、もうひとつ声が聞こえた。高く愛らしい声が毬が転がるように届いた。

「ヒミちゃん!トキワ君!」

「ハナ…」

「アオイから、ヒミちゃんが祓い子じゃなくなったって聞いて、心配になって…」

 アオイの名前も、この愛らしい声も、

 もう何も、聞きたくない。

「ヒミ…?」


 トキワが必死な顔で何か言っているが、ヒミには聞こえない。


 今度は、音を、なくした。

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