異世界転生一巡しました(♀)

あんだんご

第1話 そこにある筈のエクスカリバーは既に無く

 自分だけは死なないと、そう思っていた。

 理不尽な世界は呆気なく終わり、単純明快で平和な世界が新たに誕生すると――

 そう、信じていた。


(ゴォォォォォォォ………)

 何かの崩壊音が聞こえてくる。近そうだが、大丈夫だろうか?

 近くで建物が崩れているなら、押し潰されて俺は即死だろう。


「ははっ…死ぬ…かぁ…」


 力なく俺は笑った。

 笑う事しか出来なかった。歩く事も、何かを掴むことも、誰かを抱きしめることも、世界を見ることすらも出来なかった。


 両腕は肩近くまで切断され、脚は太腿の中間まで綺麗に消し飛んでいる。目は先程剣士に潰された。

 ここが何処で、何がどうなっているのかすら分からない俺は、地面に背中を任せ、只々理不尽なこの状況に呆れていた。


「人生なんて…はぁ……ロクなもんじゃ無かった…っ…」


 魔術によって破壊力を増していく戦争。死んでいく人々。


 俺の妻も、戦争に巻き込まれて死んだ。


 綺麗な人だった…誰からも愛され、誰よりも世界を愛していた。あんな人になりたいと、ずっと思っていた。

 それは今も変わらないが。


 もし…死んだ後に、もしも次があるなら……もう一度会いてぇなぁ…


「ヒスイ……」


 彼女の名を呼んだ次の瞬間、俺は自分の意識が無くなっていくのを感じた。




 ◇




 享年35歳……あの世界にしたら良く生きた方だと思う。


 俺は魔術師の最高位の1人として戦地に君臨し、人々にささやかな安心を与えていた。

 敵魔術師を己で開発した魔術を使って薙ぎ払い、愛すべき我が国を幾度となく救ってきた。

 最後は少女を助けて犠牲になるなんて簡単な死に方をしたが、思い返せば決して悪い人生では無かったと思う。悔いは無い。


 悔いは無い…筈なのに…。どうしてこんなに涙が出るんだろうか?

 それに、何だか妙に五月蝿いし、眩しい。


 ここは何処だ?


 目に光の攻撃を受けながらも、俺は頑張って瞼を開き、状況を確認する。

 と、誰かが俺を持ち上げているのが分かった。


 あぁ…?助かったのか?戦地から脱して、誰かが俺を介抱してくれているのか?


 しかし、それはおかしい。だって俺の目は既に

 なのに何かを見ているということは、つまり…………つまりなんだ?

 にしても、さっきからずっと五月蝿いなぁ、そろそろ嫌になってくるんだが。


 涙で霞み、良く見えない目で俺は音の原因を探す。すると、俺を抱き抱えていた人物がいきなり話しかけてくる。


「頑張ったねぇ 私の所に来てくれてありがとう……」


 泣いている人物、どうやら女性のようだ。それにしても、この人デカイな。


 私の所…とか言っていたが、ここは何処なんだろうか?


 俺は状況を確認しようと手足を動かす。

 と、次の瞬間強烈な違和感に襲われた。


 ――手足がある。


 いやそれも驚いたが、今はそんなのどうでもいい。俺が途轍もない違和感を感じたのは――


 股間にある筈のものが無い。


 切り取られたとかそういう感じでは無い…ということはつまり……。


俺って女になっちまったのかーオギャアァァァァァァァァァァァ⁈』


 声を出した瞬間、あの五月蝿い音の原因が自分であった事に、俺は気がついた。

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異世界転生一巡しました(♀) あんだんご @skuryu

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