きもだめし

朝凪 凜

第1話

 高校生が6人ほど集まり、一人が宣言した。

「お集まりいただき、ありがとうございます。今日はみなさんに——」

 きたっ! お約束のあの言葉!

「きもだめしをしてもらいます!」

 肝試し!

 今は22時を回って、廃校になった学校の正門前に集まっている。

 夏の熱射を浴びた校舎は何事もなく佇んでいて、それが今みんなで肝試しをする楽しい空間へと変貌するのだろう。

「それでは、パートナーを決めますので適当にくじを引いてください」

 各自がくじを引いて出た番号を伝える。誰々と一緒だ! とかこいつと一緒かよ! という歓声が聞こえる。俺は赤い文字で2と書かれていた。

「さて、そのくじをもとにこちらで用意したあみだくじに使わせてもらいます」

「くじでパートナーを決めるんじゃないのかよ! なんだよこの肩透かしは!」

「はい、良い反応ありがとうございます。まあ時間もないのでちゃっちゃと進めていきますね」

 言うなりあみだくじに書かれている番号を辿っていく。

「それでは、赤の1番と青の3番。赤の2番と青の1番、赤の3番と青の2番はペアになって北門、東門、南門からそれぞれスタートです。特に取ってくるものとかはないので2時間たっぷり彷徨ってください。0時になったら鐘がなるのでそこで終了、ここに戻ってきてください」

 こんな適当な肝試し聞いたことない……。

「はいスタート」

 あれよあれよという間に肝試しが始まった。


 俺のペアは、男だった。気の弱そうな奴だ。

「俺はタケルだ。お前は?」

「あ、僕はキザシって言います。兵藤くんは隣のクラスだったよね。いろんな噂は聞こえてきてるよ」

 ちょっとばかしやんちゃをしてるから色々な話はあるのだが、ここではその噂とやらは聞かないでおこう。

「しっかし、男女3人ずつ集めたのになんで全部一緒にしちまうんだよ。意味ないだろこれ」

「僕はちょっと安心だな。兵藤君なら任せられそうだし」

「お前は見るからにひ弱そうだもんな。男二人で行くのもつまんねぇし、適当に進んでくぞ」

 言って、学校——というより洋館に近い校舎に入っていく。


 しかし、思っていたより広い。ただの学校だと高を括っていたが2階建だが面積が広い。東京ドームは丸々入るんじゃないだろうかと思うくらいだし、増改築でもあったのか入り組んだ作りになっている。

「廃校になってからもうかなり時間が経っているって聞いてたけど、そんなに埃かぶってないな」

「そ、そう? ここ幽霊が出るって有名だから幽霊が綺麗にしてるんじゃない?」

 歩くごとに「ヒッ」という声を発しながらしがみ付いてくるキザシ。正直ちょっとうっとおしい。

「おっ、これなんかよくありそうな奴じゃね?」

 衣装ケースのようなところの上に人形が置いてあったのを無造作に掴む。

「ほれ、どうよ」

 ひぃぃぃぃ、と情けない声を上げながら両脚を掴まれた。

「悪かったから手を離してくれ」

「それじゃあそのフランス人形っぽい怖いのをどっか置いて!」

 ちっ、と舌打ちしながら置くフリをし、正座して縮こまってるキザシの首に紛れ込ませた。

「ぎぃやぁぁぁぁぁっっっっ!!」

 叫んで猛ダッシュで廊下を突っ切ってしまった。

「あーあ」

 言いながら自分も軽く走りつつ、この肝試しを楽しんでいることに気づいてしまった。


 200メートルほど進んだところだろうか、階段とトイレがあるところでキザシが座り込んでいた。

「ほら悪かったよ。マジで。あとで飲みもん奢るから機嫌直してくれよ」

「怒ってるんじゃなくて怖いの! 僕のこと弄んで楽しんでるんでしょ!」

「楽しんでるっていうか、あれだ。気を紛らわせておこうかと」

「兵藤君別に怖くないでしょ! 僕すごく怖いんだから!」

「そういうなって。これは肝試しなんだぜ。もっと楽しまなきゃ」

「やっぱり楽しんでるんじゃないか!」

「まあ、なんだ。話せば長くなるけど、要はそういうことだ」

「もうやだ! こんなところにも居たくないし兵藤君と一緒にいるのも嫌だ! この昇降口で野たれ死ぬ!」

「いや、昇降口ならそこから出ればいいんじゃね?」

 はっとした感じで勢いよく顔を上げてこっちを見る。

「それを早く言ってよ! 僕はもう帰るよ! うわーん!!」

 本当に走り出して昇降口から外に出てしまった。


 2時間経ち、洋館から鐘が鳴ったので元の正門前に戻る。そもそも夜0時に鐘なんか鳴ったら近所迷惑じゃねーのか。

「おかえり。君らが最後だったようだね。あれ? もう一人は?」

 今回の司会進行が不思議に訊ねた。

「いやー、それがあまりにも怖かったらしくて途中で逃げちゃって——」

「じゃああなたが当たりですね」

「当たりって?」

「ほら、後ろにいますよね。彼」

「後ろ?」

 振り返っても誰もいない。

「見えていないようですね。彼、幽霊だったんです。人が集まると寄ってきて、でも怖がりなので怖くなると消えてしまうという。私には見えているので間違いありません」

「……まじで?」

 もう一度後ろを振り返っても何も見えない。

「隣のクラスだって言ってたけど、じゃあそれも?」

「もちろん嘘でしょう」

 再三後ろを振り返ったところで「ヒッ」という声が聞こえた——気がした。

「お、おう。それじゃあな、あばよ」

 唐突に走り出して帰って行った。ひー、という声と共に。

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