第3話 Can not see 不可視

 それから、バイトの度に、彼女の姿を探した。

 モニターの中にだけ彼女は存在しているような気がした。

 不思議な感覚で、僕は彼女の姿を目で追っていた。

 それが唯一の楽しみになっていたのだと気づいたのは、ずっと後のこと。


 不安に駆られる夜がある…その不安が抜けない翌日もある。


 心臓の下がじんわりと熱くなるような、気持ちの悪い不安感。

 僕は、ずっとそれが続いている。


 なにが不安なのか…それは存在を証明する物がなにもないから。


 僕は、何物でも無い。

 物心ついたころには、戦場にいた。

 それ以外の世界は知らない。

 ただ、与えられた武器で自分以外の誰かを殺す。

 毎日…毎日…それしか知らなかった。


 ある日…僕は敵に捕まった。

 僕の日常は変わった。


 教育を受けた。文字も覚えた。何年そこで過ごしただろう。

 施設なのだろうと思う。

 そこでは誰も殺さなくてもよかった。


 だけど…僕は、そこから逃げ出した。

 外の世界…それまでどこに居たのかは知らない…けれど、僕がいた施設は日本だった。


 名前が無かった…No42、それが僕のこと。

 気付けば足首にあった小さな刻印。

 戦場でもそう呼ばれていたし…施設でも同じだった。

 何の疑問も持たなかったが、どうやらこの日本では名前や戸籍が無いと何かと不便なことが解った。


 施設を抜け出して2年が経っていた。

 僕は、今、『桜塚さくらづか 幸也ゆきや』という男になっている。


 路上で寝転がって死んだ…ホームレスの若者。

 この男の戸籍を、そのまま貰った。


 色々と面倒なことになるのは嫌なので…色々な地域を転々としている。


 生活はアルバイト。

 日雇い、もしくは素性を詮索しないブラックな会社がいい。


 時々、思う。

『ボクは…誰なんだ?』

 なんで戦場にいた?

 なんで施設にいた?


 なにも解らない。

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