第2話 Backdoor a conversation 裏口の会話

「おう、ご苦労さま…ユキ」

「おはようございます」

「今夜は明け方まで1人だけど大丈夫か?」

「まぁ…何事も無ければ…たぶん」

「そうか…なんかあれば、電話していいから」

「はい…お疲れ様でした」


 深夜のラブホテル…泊り客が多く忙しくはない。

 たまに、深夜に帰る客の部屋掃除とフロント対応だけだ。


 深夜3時を回る…デリヘル嬢が部屋を出る時間。

 清掃が重なると面倒くさい。

 嫌な時間帯でもある。


 カメラを横切るデリヘル嬢。

 最後の嬢が部屋を出てきた。

 フロントからはデリヘルの利用だとか、何回来ている客だとか、すべて解るようになっている。

 ヒマなときは、利用客の履歴を眺めて過ごす。

 それがどうしたというわけでもないのだが…。


 デリヘル嬢はみんな帰ったと思っていた。

 気分転換に、外に出ようと従業員玄関のドアを開けた。

 ビクッと身体が強張った。

 しゃがみこんだ女がいた。

 カメラの死角。

「おいっ…」

「えっ…ごめんなさい…迎えが来なくて…ちょっと待たせてください」

「あぁ…いいけど…」

「ホテルの人ですか?」

「あぁ、清掃員のバイト…」

「あぁ…バイトですか」

「うん…」

 僕は、少し恥ずかしくなった。

 定職にも就けない身分の自分が、普通のバイトすらできない自分が…。

「大変ですよね…こういうバイトも」

「キミこそ…大変だろ」

「うん…でもアタシ、バカだから…こんなことしかできない…」

「そう…僕もだ…こんなトコでしか雇ってもらえない」

「ふふふ…同じですね…」

「そうかな…僕よりはマシだと思うよ」

「アタシなんかデリ嬢ですよ…風俗嬢…」

「でも…抜け出そうと思えばソコから出れるんじゃないの?」

「う~ん…ダメみたいです…履歴書も満足に書けないし…面接とか受けたことないし」

「履歴書か…書けるだけ…マシ…」

「あっ迎えきた」

 車のヘッドライトが入口を照らす。

「そうみたいだね」

「うん、じゃあ…お疲れ様です」

「あぁ…お疲れ様」

「またね」

「えっ?」


(またね?って…なんだ…変な子だ)


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