第10話 膝枕と、土下座と、決心と。

 こちらの道路事情は、魔法のお陰なのか路面はしっかりと転圧され、多少のわだちはあれども大きな穴はなく、馬車も無骨な外見の割に足にサスペンションらしき魔法で作られたであろう構造を持っていて、乗り心地がいい。

 そして、気候もよろしく、ガタゴト揺られて寝るには丁度良かったのだ。

 ヒトセさんを慰めようと、慣れない気をつかった結果、脳が仕事を放棄してしまったというのもあるかも知れない。


 心地よい揺れと、すこしあたたかいな気温。

 寝返りを打とうとした体をがっしりと掴まれた感覚に、パチッと目が覚めた。

「落ちるぞ」

 頭上から掛けられた声に、脳みそがグィングィン動きだす。

 座っていた筈なのに、横になってる……?

 頭を乗せているこの固い枕は……?

 覆い被さるようにして、私が”落ちる”のを止めているのは……ヒトセさん。

 彼の腹部を見ていた顔をゆっくりとあげれば、至近距離で彼の端整な顔を見上げることになった。

「ええと……」

「まだ着かないから、寝てていいぞ」

 そうか、寝落ちしてたか。

 寝てていいとは言われたものの、そうもいかんので、おずおずと体を起こして荷台に正座し、ゆっくりと頭を下げた。

「ぐーすか寝てしまい、申し訳ありませんでした」

 正座からの土下座。

 また、彼に迷惑をかけてしまった。その上膝枕までご馳走になってしまうとは、本当に私って奴はっ!

「まだ足は痺れてないから、気にするな」

 笑ったヒトセさんの顔からは、寝落ちする前に見た暗い影はなくなっていた。

 彼の笑顔に胸の奥がホッと緩んだ。そっか、自分で解決したんだ。よかった! まだ暗くても、どう励ませばいいかわかんないもんな! 体で慰める、なんて古典的手段は効かないだろうしな、イケメンだし、それこそが今回の悩みの元凶だから。

 ……そうか! 私はこの世界に放り出された仲間として、彼の相棒バディになればいいんだ。背中を預け合えるような――恋愛感情はNGの。


 僅かに軋んだ胸の奥の痛みを、見て見ぬ振りをした。

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