第9話 容姿端麗、のどごしナマー。酒は飲んでも、食われるな。

 イケメンはこっちの人の認識的にもイケメンだったようだ。


「すまない……まさかこんなことになるなんて」

 荷馬車の荷台で揺られながら、ヒトセさんが項垂れている。

 そりゃ、依頼人の人妻やら未亡人やら未婚女性やらに、秋波なんて甘いモノじゃなく、ガチで食われそうになることを繰り返せば、色々思うところもあるだろう。こっちの女の人、まじ肉食獣。

 こんな時は、うまいこと慰めの言葉っ!

「だ、大丈夫ですよ。ほら、折角こっち(の世界)に来たんだから、色々な地域を回るのだって楽しいですよ」

 明るくそう言ってもヒトセさんの頭はあがらない。う~む。

「あの、私ね、すこしだけ喘息気味だったんですけど、こっちの世界に来てから、全然肺がつらくなくて。だから、悪い事ばっかりでもないかな、って思いました」

 うんうん、と自分で自分に頷く。


 実際の本音としては。この世界に来て良かったことは、間違いなく彼と一緒の時間を過ごせることだ。

 向こうで生きてるなら、絶対に接点はなかったと言い切れるイケメン。

 基本的にインドアな私は、彼と行動範囲が被ることが無い。いまの私は、こうやって、彼と出会えたのは奇跡なんだと思っている。

「だから、ヒトセさんも楽しみましょうよ。もう、くよくよするのやめてさ」

「すまない」

 暗い返答に、慰めスキルが高くない私は困る。

 困り果て無言のまま心地よい馬車の振動に揺られていると――ぐぅ。

  

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