第7話 泣き寝入りと狸寝入り。

 新しい、朝がきた。希望の朝なのかどうかはわからない。


 ここが異世界だってことは、目覚めた瞬間から理解していた。

 むくりと起き上がって隣のベッドを見ればもぬけの殻で、焦って室内を見回せばドアに背をもたれさせ、どっかりと座って寝ているヒトセさんが居た。

「よかっ……た」

 置いて行かれたのかと思った。

 嫌な音を立てた心臓と、一瞬でブワッと背中を濡す冷たい汗。


 絶望的な恐怖だった。

 こんな世界に一人で置いて行かれたら、きっと数日も生きていけないと、一瞬のうちに私の脳みそが結論をだした。


 だから、彼がそこに居ることに、感謝しか湧かない。

 だって、一晩中カギのないこの部屋を守っていてくれたんでしょ?

 腕を組み、じっと目を閉じて頭をうつむけている彼の前に、足音を忍ばせて近づいて座り込む。

「ヒトセさん……迷惑、いっぱいかけてごめんなさい。私も、もっと頑張るから……見捨てないで」

 自分の膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。


 もっと頑張る。もう泣いたりなんかしない。

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