第6話 ご休憩ですか? ご宿泊ですか?

「ここに連泊でファイナルアンサーだと思います」

 干し草にシーツを掛けた、アルプス的なハイジベッドに正座して、私はヒトセさんに直談判していた。


「私はこの宿屋で、お迎えが来るまで何日か引きこもり生活をするのが、ベターだと思います」

 再度強く要望を伝える。

 ヒトセさんは向かいのハイジベッドに座って、じっと私を見る。

 負けられない、ジッと目を見返すと。暫くしてから、溜め息を吐かれた。

「ベターではない理由だが。この宿は、俺達を馬鹿にして、ぼったくっている。このクラスの部屋で、一泊銀貨一枚というのは、法外だ」

「なんで、そんなことわかるんですか」

 憮然として尋ねれば、彼はこの宿に至るまでの店先で物価をチェックし、さらには他の客に探りを入れたとの返事が。

 さっき、トイレに行ったときか! 中々戻らないから、大の方だと思ってた。

「それにこの部屋に鍵がないだろう」

「……異世界の宿って、そういうもんじゃ?」

 違ったらしい。ヒトセさんが言うには、この部屋は『獲物』専用の部屋らしい。深夜、寝静まった頃合いで、宿の人間が荷物をかすめにやってくる。

 思わず顔が歪む。

 やっと辿り着いた安全地帯は、安全じゃなかった。

「泣くな」

「泣いてないです。目から涙を生成しているだけです、おかまいなく」

 グッと奥歯を噛みしめて、下を向くと、ボタボタと涙が膝の上に落ちた。

 不安で、不安で、仕方が無い。



「私達、日本に帰れるんでしょうか」


「帰れる。大丈夫だ」


「本当に迎えが来るんでしょうか」


「来るさ」


「い、生きて、生きて帰れるでしょうか……っ」


 涙声が情けなくひきつった嗚咽になる。

 私の座るベッドが沈み込み、力強い腕が私の肩を抱いて、引き寄せた。


 なんでこの人はこんなに冷静なんだろう。

 私よりも年上だからだろうか……。



 思考を拒否した脳によって眠りに誘われる間際、ぼんやりとそんなことを考えた。

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