バトルとエッチと日常を抜いた小説はどうなるの?

ちびまるフォイ

小説がなければケーキがあるじゃない

日本は空前の小説ブームに差しかかった。


書店ではライトノベルが多数平積みされて、

映画や漫画も小説原作のものが次々と映像化されてはヒットを飛ばす。


そこで、毎晩の豪遊続きでお金のない政府は考えた。


「そうだ! 税金を取ろう!」


最近の小説は当たり前に人が死んだり暴力的な描写が相次ぐ。

これでは反社会的な考えを持ってしまい教育的に良くない。


というお題目で税金徴収がはじまった。



『暴力描写税』

娯楽小説の中に暴力的な表現や暴力に発展しそうな描写、

もしくはPTAがダメだと言った描写を書くと

作者には該当部分1文字につき1000円徴収



「ふざけんなー!」

「表現の自由をなんだと思ってるー!」


娯楽小説の作家たちは真っ先に反対したが、

政府から発射される精密射程弾道ミサイル「極めて遺憾」により駆逐された。


初回こそ非難が台風のようの吹き荒れはしたが、

慣れてしまえば反対にも飽きて静かになった。


「大臣、それで城下の小説事情はどうなっている?」


「はい。暴力的な小説や反社会的な小説はなくなりました」


「それはよかった。この調子でガンガンいこう」




『性描写税』

娯楽小説の中に性的な表現やPTAが文句言うような描写を書くと

作者には該当部分1文字につき5000円が徴収



新たに税金が追加されてこれにはラノベ作家がいきりたつ。


「おぱんつかぶる小説がかけないじゃないか!」

「ラッキースケベと乳揺れは日本の宝だぞ!」

「エッチな展開のないラノベなんて、ただの紙だ!」


「性的な表現があると、読んだ人が悪い影響を受けてしまうかもしれません。

 ……とPTAが言っていました」


暴力描写につづいて性的な描写も完全に抹消された。

1文字5000円の痛手を負いながら書く作家などどこにもいない。


「総理、やりましたね」


「ああ。これで国民はみんな正しく成長できるはずだ」


ご満悦でフルーツをむしゃぶる2人は気分よく町の書店に出かけてみた。

そこで、自分たちがいかに世間知らずだったことを自覚した。


「な……なんだこれは!!」


「異世界小説にゲーム転生小説ですね。最近のブームなんですよ。

 暴力がなくても、性的な表現がなくても安定して売れていますね」


パラパラと中身を読んでみて絶句した。


「初回から人が別世界に行ってるじゃないか!」


「そういうものですよ?」


「大臣、これはまずいぞ。こんなものが国民の頭に浸透してみろ……」


「なにがはじまるんです?」


「第3次世界大戦だ!!」


庶民の現実逃避のはけ口となっている小説が大人気になっている。

それはつまり、現実逃避を加速させている事実にほかならない。


官邸に帰った総理は真っ先に新しい税金を発表した。



『異世界転生税』

娯楽小説の中で現実世界でない場所で新生活が行われる小説は

その描写1文字につき1000円を徴収。



『ゲーム税』

娯楽小説の中でゲームを登場、もしくはゲームを題材とした小説は

1文字につき1000円を徴収。



「これでよし。引きこもりニート問題もこれで解決するぞ!」


あれほど小説SNSサイトをにぎわせていた1大ジャンルが

軒並み消えて残っているのは毒にも薬にもならない日常小説ばかりになった。


「総理、これでもう大丈夫ですね。

 庶民が手にする娯楽小説の中に暴力も性的な表現も

 現実逃避を促進させるようなものもなくなってますよ」


「ところで大臣。日常小説をどう思う?」


「すごく……(影響が)大きいです……」


「だな。現実を題材にしても、現実逃避はできてしまう。

 これは早く税金の対象にしないとまずいことになりそうだ」


最後の砦であった日常小説にもついに税金のメスが入れられた。




『日常小説税』

娯楽小説の中で現実世界と近似した世界を書いて、

読者が没入したくなるような描写を書くと1文字4000円徴収。



「これでよし!」


「総理、判定がふわふわしてませんか?」


「その場合はPTAに聞けばいい。きっとOK・NGを答えてくれる」


あまたの税金導入の結果、小説は書店に並ばなくなった。

書店には雑誌やハウツー本ばかりになり、日本の基礎学力もなぜか向上。


「総理、なぜか日本国民の頭がめっちゃよくなってます」


「いいことじゃないか。現実逃避する先がなくなったから真面目になったんだな!」


ふと総理が時計を見ると、慌てて帰りじたくをはじめた。


「総理、どこかへ行かれるんですか?」


「今日は娘の授業参観日なんだよ。なんとしても見に行かなくては」



総理は娘の授業参観にやってきた。

ちょうど英語の授業がはじまるタイミングに滑り込みセーフ。


「パパ、きてくれたの?」


「ああもちろん。お前ががんばって勉強してる姿を見に来たんだよ」


「私ね、英語の教科書だいすき! 勉強もだいすき!」


「そうかそうか。きっといい子に育つよ」


英語の授業がはじまると娘が朗読することになった。


「スタンドアップ、このページをリーディングしてください」


「イエス、ティーチャー」




Ken is reboned the New World from VRGAME.


Gobrin kill people every Sunday.


Ken battle Gobrin with Yumi after school.


Yumi'nood was looled Ken in unit bath.


Yumi said "Kya-! Echi" and punched Ken. Ken is dead.



「パパ、最近ね、教科書がすっごく楽しいの!

 異世界にいったりゲームの世界に転生したりバトルしたりエッチしたり

 たまに日常を挟んだりしながらも冒険したりするんだよ!

 最近の教科書ってすごいね!」


参観日が終わってから娘は笑顔で言った。

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