第18話「無音」
……シンゾウ、ウシ、……シカ、カラシ。
『むぅ、麗子、シで攻めてくるのは卑怯だよぉ』
響はネコの抱き枕を抱きしめながらホワイトボードに文字を書いていた。
「ですが、響様。しりとりにおいて、縛らせて頂くのはセオリーかと思いますが?」
麗子は余裕の表情で響の次の答えを待った。
(むむむ……)
ゴロンゴロ!
響は頭を抱えながら床を転がり悩んでいた。
がばっ!
不意に起き上がり、抱き枕を、ぎゅ~~と締め上げた。
(ふんっ、『しりとり』じゃなければ、ひびき負けないもん!)
なぜか年下の少女に本気になり、悔しさのあまりもう一度抱き枕を締め上げ、気がすんだのか、ごめんね。と言うかのように持ち上げ頭を撫でた。
『こうさん』
響は負けを認め、ジジ~~っと抱き枕にも関わらず収納スペースがついている、ねこの背中のジッパーを開き、トランプを取りだした。
『次はしんけんすいじゃくで勝負! ていっ!』
ホワイトボードに文字を書き込んだ後、トランプをばら撒いた。
「いいですよ。ですけど、あたくし、神経衰弱は得意ですよ」
しかし、響はその言葉に耳も貸さず、神経衰弱を勝手に先行で始めた。
(ひびきのターン。えいっ! えいっ!)
勢いよく2枚のカードを開き、偶然にも同じカードだった為、そのまま手元に寄せた。
その次も同じカードで響は手元に持ってこようとした時、
ガシッとその手を掴まれた。
!!
響が驚いていると、
「いかさまはダメです!」
と可愛らしく頬を膨らませている麗子がいた。
「このトランプ、端の模様が一枚一枚違いますよね」
麗子の指摘がその通りだったため響は肩を落とし、『まいりました』と書いた。
その様子を見て、クスクスと楽しそうに麗子は笑った。
(カワイイ子だなぁ。まだ中学生くらいだっけ? うん、ここは年上のおねぇちゃんとしてシッカリ守っちゃうよ!)
響が勝手に決意を固めていると、部屋に異変が訪れた。
ゾクッ!
麗子は悪寒を感じ、その場でガタガタと体を震わせた。
「い、いや! 来ないで! もう、あんなのイヤ!」
普通ならば訳もわからず、オロオロしてしまうところだろうが、事情のわかっている響は即座に、
(ッ! セっちゃんの言うとおり呪音が来た!)
響のエコーズはただエコーズを消すだけで他に出来ることは何もない。パワーだけならば最強クラスなのだが、その分、汎用性に欠ける。自分自身をこういった相手から守るのは造作もないことなのだが、誰かを守るとなると話は別だった。
(一回、麗子に取りつかせれば簡単に消せるけど……)
ガタガタと震えている麗子に目をやり、先程の決意を思い出す。
(こんな子を辛い目になんか合わせられないよね。やっぱり! ヒーローのみんながこの場にいてもそう思うはず!)
響は抱き枕のジッパーを開け、ゴソゴソと中のモノを取りだした。
(えいっ! 秘密兵器~。メリケンサック~! って違う)
カランっと音をさせ、メリケンサックは床に叩きつけられた。
(これはお兄ちゃんからもらったプレゼントだった。そうじゃなくてセっちゃんから貰った方はっと)
ゴソゴソッ……。
(ていっ! 非常食~! って確かにセっちゃんに貰ったやつだけどこれじゃなくて……)
非常食は丁寧に床に置かれ、響はさらに抱き枕の中を探した。
(今度こそっ! せいっ! 周波数測定機~~!)
響はマイクに小型ゲーム機がくっついた様な形状の機械を取り出した。
目的のモノが取り出した響は抱き枕をぽーいと投げ、その機械のスイッチを入れた。
周波数測定機とは、その字のまま周波数を測る機械である。普段聞き取れない音でも周波数として拾うため、相手が見えないときに使う、響の秘密兵器である。
(さぁ、こい!)
響は数値を観察しながら、常に通常ではありえない周波数の出所と麗子の間に盾になるように割って入っていた。
勢いよく麗子に向かって動きだしたのを確認した響は、依然変わらず麗子との間に移動し、待ち受けた。
呪音は響の存在を気にも止めず、まっすぐに向かってくる。
(へへん、ひびきに向かってくるなんておバカさんだね!)
響は勢いよく手を突き出した。
キュイーン!
変な音の後、耳に痛いほどの静けさが訪れた。
悪寒が去った麗子は涙目になりながら顔を上げると、そこには響が、「えっへん!」と言わんばかりにあまりない胸を張っていた。
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