タイマー付き異世界転生者

ちびまるフォイ

ラノベのタイトルって長いけど、あれなんなの?

「はじめまして。私は女神アナト。あなたはテンプレ運送のトラックに轢かれて死にました。

 記憶はあると思いますが、これからあなたは第二の人生を過ごすにあたって

 かねてから依頼されていた冒険者ということで異世界に送り込もうと思っているんですが

 あなたの意見を聞かせてもらいたいと思いつつも、女神という立場上察してあげるのも必要かと思って...」


「長い長い!」


「ごめ。姉さん話長いから休日出勤のあたしが説明するわ」


「ごめんね、ミナトちゃん。私、昔から頭の中で話したいことがわーーっと溢れて

 それを言葉にしようとするとどうしても長くなってしまうの。でもね、最近の人は

 みんなコミュニケーション不足って言うじゃない? 話さないよりは話した方がいいと思うの。

 ミナトちゃんは昔から言葉足らずだったりで誤解されること多いでしょ? だから...」


「お前、世界、救え。残り3時間」


妹の女神(休日出勤)のミナトにより世界へとたどり着いた。

ついた先の風景は……まぁ他の異世界小説でも読んで把握してほしい。


ただ手のひらには、デジタルタイマーが表示されている。

ご丁寧に「ジュミョウ」の文字付きで。


「えええ! こんなに短い時間で世界が救えるかぁ!!」


さっそく出てきた敵を倒して先に進むとわずかにタイマーが増えた。

言葉足らずな女神ミナト(妹)は説明をはしょったが、

どうやら進軍を進むほどにタイマーが増えるらしい。


「よし! 進むのを止めなければ死ぬことはない! 行くぞぉぉ!!」


女神の作戦通りなのかはわからないが、まさに死に物狂いで進んだ。

でもそれも序盤だけで敵が強くなるにつれ戦闘では苦戦を強いられる。


「ちくしょう! 時間がないってのに!!」


回復魔法を使うわ連続攻撃するわで時間をかせがれる。

タイマーは戦闘を重ねるたびにみるみる減っていく。


「だ、ダメだ! ひとりで冒険なんてできやしない!!」


タイムロスになるので避けていたがたまらず冒険者ギルドへ駆け込んだ。


「あの!! 強くて即日採用できる人材を紹介してください!!」


「なんですかそのブラック企業の求人みたいな注文は……」


「こっちは命かかってんだよぉぉ!!!!」


「わかりました! わかりましたよ!」


紹介されたのは女性だらけのハーレムパーティ。


「私はアイリス、魔法の名門マハード…」


「そういうのはいいから!! 現場で能力見せろ!!」


自己紹介をすっぽかして一気に進撃を進める。

先に進んで魔物の居住区を脅かしていかないとタイマーが減って俺が死ぬ。


「敵を穿て! シャイニング・エターナル・フォース!!」


「すごい! 一気に効率的になった!!」


ギルドで仲間を募ったのはいい判断だった。

多勢に無勢で時間がかかっていたバトルもサクサク進むようになった。


「キルト様、今日はもう休みませんか?」


「え? そんな時間ないけど……」


休憩はただタイマーを減らすだけの障害になるので

必要最小限しかとっていなかったが……。


「戦闘続きて汗だくなんです」

「女の子だもんお風呂に入りたいのよ!」

「ぜったいにのぞかないでよ!」


「もうそれこの先のエッチなハプニングのフリじゃん……」


そもそも休んで風呂に入る前提になっているが、

ここで仲間にへそを曲げられてしまっては明日の進軍に差しさわる。


仲間の提案を受けて休むことにした。

その夜。


「キルト様、今お時間よろしいですか?」


仲間の1人がやってきた。


「実はこの先の村に私の故郷があるんです。

 かつて魔物に蹂躙されて私は両親に命からがら助けてもらって……」


「お、おう……」


「もし、あの村を再び取り戻せればと思って旅に出たんです!」


あ、これ俺が助けてやろうと言い出すパターンだな。

開始数秒ですぐに気付いたが、鈍感主人公のふりをしてごまかした。


数時間後、かわるがわる仲間が来てはしゃべりはじめた。


「実はこの先にある洞窟にどうしても欲しい魔石があって……」

「この森の中に私の姉がいるという話が……」

「ねぇ、キルト様。どうか世界を救う前に私たちの個人的な事情を……」



「うるせぇぇぇぇ!! お前たちのキャラの掘り下げなど知るかぁぁ!!」


と、怒鳴りたかったが人間関係は妥協で成り立つ。

彼女たちの協力なくして先へ進むことはできないため、

行きたくもないサブダンジョンを次々に攻略していく。


これでも一応進撃はしているのでタイマーは増えていると思うが……。


「えええ!? もう残り1時間!?」


めっちゃ減っていた。


思い起こせば仲間が増えたことにより会話が増えて冒険が減った。

1人の時のように殺伐とした冒険ではなくなってスピードが落ちたんだ。


「くっそ! もう時間がない!! やぶれかぶれだ!!」


仲間に頼んでゲート魔法を使い、世界を恐怖に陥れる魔王の城へとワープした。


「ククク。その程度の装備でここまで来るとは愚かな」


「こっちには時間がないんだよぉぉ!!!」


とにかく進むしかない。

魔王めがけて剣を振るった。


剣先が魔王に触れるよりも早く俺の体が灰と化した。


「やはり人間は愚かだな。先を急ぐあまり相手との力量差がわからないとは」


魔王はうっとりと自慢の杖を眺めていた。

無残な灰は徐々にもとの人間の形へと寄り集まっていく。


「なっ……! 貴様! いったい何を……!!」


「まさか、時間が来れば死ぬけど、時間が来ない限り死なないのか!?」


相変わらずの説明不足過ぎる女神ミナト。

でも、これは好都合だった。


「行くぞォォォ!!」


「ええい! 何度でも消し炭にしてやるわ!!」


魔王に挑むこと数百回。

一瞬で再生して襲ってくる人間の恐怖に魔王はついに諦めた。


「わかったよぉ! もうお前の勝ちでいいよぉ!!」


その姿は「帰って来たドラえもん」のジャイアンにそっくりだった。


「はぁ……はぁ……やった……制限時間内に勝てた……!」


手のひらのタイマーは残り5分だった。

やがて体は光に包まれて最初の女神の部屋と転移した。


「よくぞ世界を救ってくれました。本当にありがとうございます」


女神アナトは嬉しそうに笑顔を見せた。


「それじゃタイマーを解除してください」


「ええ、もちろんです。本当にあなたはよくやってくれました。ミナトは今回も失敗すると言っていましたが

 私はあなたのことをずっと信じて居たんです。最初に目を見たときに確かな決意を感じました。

 途中の村で仲間をないがしろにして先へ進むような瞬間もありましたが、 

 あれは一刻も早く世界を平和にしたいという高い志の表れだと...」


「あの……」


「そして魔王を倒した時の不撓不屈の精神はこれまで送り出してきたどの人間よりも

 勇ましくてやはり私の目利きは正しかったのだと痛感いたしました。ええ、ほめていますよ。

 これからタイマーを解除してあなたを元の世界へと送り出しますが、あなたなら現実世界に戻っても

 今回の経験と持ち前の精神力で必ずや幸せを勝ち取るでしょう、ああ、それと幸せで思い出しましたが

 最近、私ダイエットを始めたんです。ほら、女神ってあまり動かないじゃないですか。

 女神ダイエットの本も買ったので始めたんですけどこれがなかなか難しくって。ミナトは痩せているから

 特に何もしなくても痩せたままでうらやましいわ。それでミナトに話を聞いたんだけどあの子ったら

 なにも話してくれなくてもう残念です。まぁ、そういうクールな女神が男神には帰っていいのかもしれないけれど

 姉としてはもっと姉妹仲を良くして美人女神姉妹として天界でも注目されたいなぁって……あれ?聞いてます?」



「ミナトさーーーん!! 早く戻ってきてーーー!!!」





ミナト:代休消化のため本日不在。


アナトの話が次の旅行先で悩んでいるくだりに入ったころ

俺のタイマーがゼロを示した。

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