少女と闇夜の使徒の主

「にしても酷い有り様だったな」


 アビーは遺跡の中を歩きながら呟いた。


 この遺跡にくる途中、ルインの街の惨状を見てしまったのだ。

 守護者ガーディアンが現れた広場を中心に大きく破壊されていた。街の外周付近も戦いの爪痕が大きく残されていた。

 幸いにも、広場の地下から現れた守護者ガーディアンはロイスとセレナ達ハンター協会の人と闇夜の使徒のメンバーによって、殲滅が完了していた。

 街の外にいた守護者ガーディアンも結界が張られた後は来なくなっていた。


「広場から現れた守護者ガーディアンは出所を我々が潰したから当分は大丈夫だろう」


 地下にある遺跡の一部を闇夜の使徒は爆破して、塞いだのだ。

 遺跡を破壊することは、遺跡を守り調べる立場であるハンター協会には出来ないことだ。

 後で問題になるかもしれないが、闇夜の使徒がいなければ街にはもっと甚大な被害が出ていただろう。


「そ、それよりっと・・・後どれくらいですか?」


 リリィはクリスティアを背負っているため、ふらつきながらナハトの後に付いて行く。


「もうすぐだ。・・・・・ここだ」


 ナハトは遺跡の石壁に手をやると、ガコッという音と共に石壁がスライドして新たな道を現れた。


「来い」


 リリィとアビーはナハトの後を黙ってついて行くのだった。



 暫く歩いていると、火の灯りが辺りを照らし始める。


 そこは大きな広間のようになっており、闇夜の使徒のメンバーである数人の人々が怪我の手当てや、地上で起きていることの状況整理等をしていた。


「こっちだ」


 そんな人々を無視して、ナハトは更に奥の部屋へと歩いて行く。


「お、ナー君!帰ってきた!」

「「ナー君?」」


 突然響いた女性の声に疑問を浮かべるリリィとアビー。

 視線の先にはリリィより少し目上の黒髪の女性がナハトの身体をまさぐるようにし心配そうな顔をしていた。


「ナー君、怪我してない?」

「大丈夫だ。それよりナー君はやめろといっているだろ」

「そんなこと言ってると、ナー君の闇の魔力、返してもらうよ?」


 女性は何かとんでもないことを言いながら、頬を膨らませる。


「紹介する。これは我らの主でメアという。闇夜の巫女フォンセ様の妹君の子孫だ。因みにお前が背負っているのは光輝の巫女リュミエルの妹君の子孫だ」

「ということはあなたは今の闇夜の巫女ってことですか?」

「ん~、そうなるね。貴方は光輝の巫女の娘だよね?このメアちゃんの力より遥かに凄い魔力を持っているみたいだし」


 現代の闇夜の巫女であるメアはリリィを見てにこっと笑う。


「それにリュミエル様も目覚めたみたいだね」

(貴方は私の存在が分かるのですか?)

「主にはリュミエル様の声は聞こえん。ただ光の魔力を感じているだけだ。」

(そうですか)

「ふーん、やっぱりナー君には聞こえるんだね。ま、いいけど」


 メアは巫女って感じがしない気さくな性格のようだ。


「あ、その子が今の光輝の巫女でしょ?そこのメアのベッド使っていいよ。安心して、ちゃんと治療はしてあげるから」

「わ、わかりました」


 リリィは背負っていたクリスティアを言われたベッドに寝かせた。


「主、あれはまずい状態だ。聖都アナスシアにも救援を頼むべきだ」

「うーん、そうしたいとこなんだけどね~。無理なんだ」

「何故だ」

「ルインの街中心に結界が張られちゃったみたいでさ。外界と全て遮断されちゃったんだよね~」

「なんだと!?」


 リリィとアビーはぽかんとして話を聞いていた。


「そこでリリィちゃんだっけ?ナー君から君の話は聞いているよ。早速だけどあの暗黒の太陽を壊してくれないかな?」

「へ?」

「へ?じゃないよ。君の魔法ならあんなの撃ち落とせるでしょ?」

「そ、そんなことできません!」

「そうなの?」

「そうです!出来るならもうやってますよ!」


 メアは無知なのか、リリィに無茶なお願いをしてくる。

 リリィの今の魔力では、魔法を放ったとしても、上空にある暗黒の太陽まで行くまでに、周辺を覆う闇の魔力で中和されてしまう。


「ん~・・・メアが協力してもダメかな?」

「メア・・・さんが?」


 突然のことにきょとんととしてしまうリリィ。


「そうそう。一応ここの幹部達に貸しているメアの魔力を全て集めれば、闇同士の魔力で相殺して、暗黒の太陽までリリィちゃんの魔法を届かせることは出来ると思うんだ」

「主!それでは貴方が!」

「大丈夫。うん、少しの間なら大丈夫。だからナハトは幹部達を集めて」

「・・・・・・わかりました」


 ナハトはまだ納得出来ていないのか、少し歪ませた顔で出ていった。


「さてと、メアも準備しよっかな。久々の全力出しちゃうよ」

「・・・・・・・・」


 そんなメアを見て、リリィはある疑問が浮かんだ。


(あの器で他人に分け与えるほどの魔力持ち?)


「リリィ、どうしたんだ?」

「・・・ううん、なんでもないです」


 リリィはアビーの質問には答えず、かぶりを振った。



 --------------------------



(リリィ、気付いたのでしょう?)

「・・・・・・うん、なんとなくだけど」


 リリィは一人になりたいと言って、皆が準備をしている間にクリスティアの傍にいることにする。そこで、指輪に宿る光輝の巫女リュミエルと話をしていた。


「メアさんはあまり魔力を持てる身体ではないですよね?」

(そうですね。魔力の保有出来る総量はリリィが圧倒的に上です。他の方々にかなりの魔力を分け与えているのに、彼女の身体は魔力が溢れそうになっている。それがその証拠です)

「でも、ナハトみたいに分け与えた魔力を戻すってことは」

(下手をすると彼女の身体が耐えられなくなり、暴走。或いは崩壊を起こすでしょう。良くても何かしらの弊害が彼女の今後の人生に影響を与えるかと)

「・・・・いいのかな?」


 さっきのメアは軽い感じで提案をしていたが、そんな素振りを見せなかった。


(リリィ、彼女は覚悟を持って言った筈です。自分自身のことは彼女が一番わかっているはずです。それなら、この機会を貴方が繋がなければいけません)

「・・・・・・うん」


 リリィは頭でわかっているのだが、感情がそれを拒んで、返事が遅れてしまう。


(リリィ、これは暗黒の太陽を壊す最後のチャンスです。恐らくファイ・・いえ、今はアリアでしたね。壊されてしまった兵器ではアリアでも、暗黒の太陽までは貴方を連れていくのは無理でしょうから)

「・・・でも、私にあの距離であんな大きなものを壊せる自信が・・・」


 リリィの不安は今日1日で使った魔力の量だ。

 アリア達に分け与えた魔力、自分が放った魔法の数。それはかつて無いほどの魔力消費量だ。

 成長していることもあり、以前よりは多くの魔力を扱えるようになってはいるが、あの暗黒の太陽を破壊する魔法となると、不安になってくる。


(リリィよ。それは我らが何とかしよう)

(そうそう。リリィちゃんはできるって!)

(まぁ、私達の魔力との親和性が高いリリィなら大丈夫でしょう)

(ん~・・・眠いけどがんばるよ~)


 そこにリリィの指輪に宿る精霊達が声を掛けてくる。


(貴方達・・・)

「え?・・・え?どういうこと?」


 リュミエルは精霊達が考えていることがわかったのだろうが、リリィはよく理解できていない。


(リリィ、魔力は我々が与える)

(普段は私達がリリィちゃんから魔力を分けてもらっているけど、逆にリリィちゃんに分け与えることもできるってこと)

(親和性と保有出来る魔力量がないと危険ですが、リリィなら大丈夫でしょう)


 リリィはアーシー達から説明を受ける。


「でもそれじゃあ皆は」

(我々なら大丈夫だ。表に意識を持ってこられなくなるが、お前の嵌めている指輪の宝石。つまり、我々の核がリリィと共にあれぱ、消えることはない)

(まぁ、暫くは会話も出来なくなるかもしれないけど、私達の意識はそこに在り続けるから)

「・・・・・・」


 アーシー達はその回復はいつとは言わなかった。

 リリィはそのことの気付いていたが、あえて何も言わなかった。

 それを口にしては、皆の気持ちが無駄になってしまいそうだったから。


「・・・うん。皆、私に力を貸してください」


 リリィは少し目を瞑ってから、そう言葉にして決意をした。

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