少女、闇夜からの

「お前ら、早く立て」

「な、なぜお前が」

「闇よ・仇成す者・切り裂く・刃となれ・ダークエッジ」


 近付いて来た守護者ガーディアンにナハトは闇の刃を飛ばす闇魔法を放った。


 闇の刃は夜の闇に紛れて視認は難しいが、確実に守護者ガーディアンの手足を切り刻んでいく。


「我々の計画は破綻した。今は被害を抑えるために協力をする。ただそれだけだ」

「お前達の計画は何なんだ」

「・・・・・・闇夜の巫女の解放」


 ナハトはそう言い残して、周りにいる仲間らしき人達と守護者ガーディアンの殲滅に入っていった。


「隊長、信用していいのでしょうか?」

「まだわからない。だが、今は街を守るのが最優先だ。そのためなら、あいつらの手を借りるのも手の一つだ」

「わかりました」


 ロイスとセレナはそう決めると立ち上がり、まだ残っている守護者ガーディアンの討伐を再開する。


 ナハト達、闇夜の使徒のメンバーの参戦により、多方向からの攻めが無くなったため、ロイスとセレナも戦いやすくなり、次々と守護者ガーディアンを倒していく。


 だが、街の広場に空いた巨大な穴からは守護者ガーディアンが出続けていた。


「隊長、あの穴を塞いだ方がいいのでは?」

「そうだな。では」

「無駄だ」


 いつの間にかナハトがすぐ近くに立っていた。


「どういうことだ」

「もう既に試した。だが、下からすぐにまた空けられてしまう。いや、消されてしまうと言った方が正しいか」


 ナハトは巨大な穴の方を見て言った。


「どういうことなんですか?消されるって」

「・・・・・・・」


 ナハトはセレナの質問に答えずに、空に浮かぶ暗黒の太陽を見ている。


「・・・・・・・来る」


 ナハトが呟いた瞬間、暗黒の太陽から溢れていた闇が空一面に拡がり始める。

 そして、暗黒の太陽から小さく光る何かが落ちるのも見えた。


「・・・・ちっ」

「あ、質問に答えなさい!」


 ナハトはそれが何かを理解すると、セレナを無視して落ちてくる何かに向かって駆け出した。



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「あ、アビーさん!」


 リリィはこっちに必死に手を伸ばすアビーに向かって叫んだ。


 リリィは暗闇の地面に向かって落ちている最中だ。

 後何秒かしたら、地面に叩き付けられ、即死するのは目に見えている。


 それまでに風の魔法を使い、落下速度を落とそうにも、アビーと離れている状態で使えば、魔法で吹き飛ばして離ればなれになってしまう。


 なんとか意識の無いクリスティアを捕まえることが出来たリリィだが、そのせいでアビーに向かって手を伸ばすことが出来なかった。


(リリィちゃん!もう時間がないよ!)


 咄嗟に霊体化したアリアの声がリリィの頭の中で響く。

 暗くてわかりづらいが、地面はもう既にすぐそこまで来ている。


 アビーとはまだ距離があり、何を叫んでいるのかは聞き取れない。

 それでも必死であることは表情でわかる。


 すると、アビーはいきなり剣に魔石をセットし、後ろに向かって放った。

 放ったのは爆発を起こす火の魔石。

 その推進力で、アビーはリリィにやっとのことで手が届いた。


「リリィ!」

「いきます!風よ・全てを」


 リリィはアビーが自分を支えてくれると同時に魔法の詠唱を始める。

 唱えるのはエアロハンマー。

 これを地面に向かって思いっきり放つ。


 地面はかなり近くまで迫っており、減速が間に合うかは分からないが、やらないよりはいいはずと信じてリリィは魔法を放った。


 だが、減速するには距離が足りなく、そのまま柔らかい地面に叩き付けられた。


「・・・あ、あれ?」


 リリィ達は柔らかい地面に叩き付けられたはずなのだが、全然痛くなかった。


「なんでこんなに柔らかいの?」


 落下の衝撃を全て相殺する程の柔らかさを持つ地面なんてあり得ない。

 そう思って周りを見てみると、以前大穴に落ちた時に受け止めてくれた闇が広がっていた。


「やれやれ、もう一度受け止めることになるとは」

「な、ナハト」


 そこにはナハトが疲れた顔をして立っていた。


 ナハトはリリィ達が落ちてくるのを見つけ、闇の魔法を展開して、クッションのようにしたのだ。


 夜の暗闇の空からリリィ達が落ちたのを確認出来たのは、ナハトが闇の魔力を使うが故に、暗闇の中でも視界が利きやすいからだ。


「その、ありがとうございます」

「それよりあれはどうなった。そこにいるのは現在の巫女だろ?」


 ナハトはリリィが抱える裸のままのクリスティアを見て言う。


「そうですけど」

(この男・・・)


 ふと、頭の中にリュミエルの声が響いた。


「ほう。やはりリリィでも覚醒出来たのだな」

(貴方、私の声が)

「俺も光の巫女の血筋だからな」

「え?でも闇の魔法を・・・」


 リリィも上空で闇の魔力を魔法にしようとしたが、上手く制御が出来なくて、すぐに手放したのだ。同じ光の巫女の血筋だとすれぱ、おかしく感じる。


「覚醒しているのなら、あれの止め方も知っているのだろ?早く教えろ」


 ナハトは淡々とリュミエルに向かって質問を投げ掛ける。


(・・・私は過去、あれを封印したことしかありません。それに、私が封印した当時より力も強まっています)

「手は無いということか?」

(・・・・・・いえ。どのようなものであれ、あのような巨大な力を持っているには核があるはずです。恐らくは闇夜の巫女のフォンセの身体を核としているとは思うのですが)


 リュミエルは過去に闇夜の巫女の暴走を封印して、今まで眠らせていた。

 現在暴れているのは、そのフォンセに取り付いた負の思念体だ。これは封印される際にフォンセの身体から抜け出し、暴れようとしたところ、光輝の巫女のリュミエルが自分自身に封印をし、光輝の巫女の血族が今まで封印してきたものだ。


「ナハト様、少々宜しいでしょうか?」


 そこへ、ナハトの部下らしき者がナハトに耳打ちをしにきた。


「・・・そうか。わかった。お前は街の防衛に回れ」

「はっ」


 ナハトの指示に従い、男は街の方へと走っていった。


「あんたの言うとおり、フォンセ様の身体は封印された場所には無かったらしい」

(・・・・・・そう、ですか)


 リュミエルはフォンセを助けるために封印を施した。それなのにまた、彼女を苦しめる羽目になってしまっていることを悔やんだ。


「リリィ、それとアビーだったか?俺と共に来てもらおう」

「え、どこにですか?」


 アビーもリリィの後ろで警戒をしている。


「俺達の、闇夜の使徒の主の元へだ」

「ま、待ってください」


 リリィは早速歩きだそうとしているナハトを呼び止める。

 リリィは向かうことに異議は無いが、問題が一つあった。


「その、ティアを・・・」


 リリィの腕の中では裸のままのクリスティアが横たわったままだ。要所はリリィが隠しているので問題はないが、このまま放置するわけにはいかない。


「連れてくればいいだろう」

「いえ、その服を・・・」

「別にガキの裸なんぞに興味はない」


 クリスティアは14歳のリリィのより一つ上の15歳だ。

 胸も膨らんでおり、裸を異性に見せるわけにはいかない年齢だ。


「・・・・・これでも被せて持ってこい」


 ナハトは仕方がなく自分が着ていたローブを脱ぎ捨て渡してきた。


「ありがとうございます」


 リリィは素早くクリスティアにローブを着させて運ぼうと、クリスティアを背中に乗っける。

 足はふらつくが、歩けない程ではない。


「・・・大丈夫か?」

「大丈夫です」


 心配してくれるアビーにほ悪いが、裸のクリスティアに触れさせたくなかった。


「準備が出来たなら早く行くぞ」

「は、はい」


 リリィとアビーはナハトに連れられて、街の近くの小さな遺跡の奥へと入っていった。

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