第10話 報復

 HIBIKIとの会見が行われている間、ひびき達(のダミー)は地球で確認されていた。そこでひびき達には異世界間を行き来する力は無いようだと、ひびき達を監視していた者達には見えた。だが、異世界間を行き来できる者と接触しているのはひびき達という確信は持ち続けている。

 リテラに出入りしている者のうち、可能性があるのはひびき達だけだからだ。


 彼らは異世界にある何かしらが、現在の世界にはない新たな知識……戦略的、戦術的に利益を持つ可能性ある知識……の可能性を捨てきれない。事実、高橋が会見で発表した植物も鉱物も有益なものの可能性が高かった。では他にも? と考えるのは自然なことだった。


 事態は速く動いていて、この夜、ひびき達の家に招かれざる訪問者が来た。

 ……それも複数箇所から。

 ひびき達は当然断り、親しい人達に手を出さないよう伝える。手を出すようなことがあれば、HIBIKIが持つ特異な力で報復すると軽い脅しも加えた。


 手段を選ばずに手を出してきた機関もあった。だが、ドルとマズがひびき達と同化して任務を果たさなければならなくなった時点で応援を呼んでいたので、ひびき達はもちろんあたるの彼女奈美恵やその他知人達に被害が及ぶことはなかった。具体的には、犯意ある者達の気配を察知した時点で、彼らの記憶から任務に関する知識と記憶が失われ、行動に出られなくされた。


 また、手に入らないならば、他の機関の手に落ちる前にひびき達を殺害しようと試みた機関もあった。こちらもまた無力化されたが、ドルの仲間達によって報復もされた。といっても、命を奪うようなことはしない。実行犯のみならず組織の関係者全員の記憶がほぼ幼年時代まで消された。これにより、組織は壊滅状態に追い込まれる。



 このあたりのヘッド達の行動基準は、ひびき達には判らない。命を奪わないけれど、記憶を消してしまうのも非人道的ではとも思う。とはいえ、対抗手段があることを知らしめる必要があり、手を出してきても無駄だと理解させなければ、いつまでたっても落ち着かない状態が続く。いまいち納得はできないが、ひびきあたるには、どこにどのような対抗手段が行われたのかは伝えられ、その報告と結果を受け入れた。


 しかし、凄まじい内容だ。


 ある発展途上国など、大統領が演説中に突如幼児化してしまい、その様子がメディアに流れ大混乱に陥った。たった数日で、公には知られずに”急病”により退陣した閣僚の数は、世界で見ると数え切れないほどであった。企業の社長や側近、研究所関係者等々でどれほど多くの”幼児”が誕生したのか判らない。


 人類がいくら進歩しようと、欲しいものを力尽くで手に入れようとする姿勢は変わらないものだとひびきは思った。また、報復するときは徹底してやるのだなと、あたるはヘッドの姿勢に驚いていた。


 多くの国や機関は、多大な損害を被ることとなった。だが、ひびきあたるを非合法的に捕え、もしくは殺害しようとした報復によるものとは公表できず、抗議もできなかった。


 『HIBIKIとひびき達には手を出すな』


 この認識は数ヶ月で世界で共有されることとなった。そして抜け駆けする集団が出てこないよう、お互いに監視するようになっていた。地球でひびき達の安全が徐々に確保されつつあった時、異世界ではついに”逆転”のスキルが使われる。


 ……響と能は再び異世界での撮影に動く。

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