第11話 異世界のリアル ー 願い

 人間とクリーチャーとの戦場から離れた山岳にある洞穴ほらあな

 ここに転生者は逃げ延びていた。

 鎧はボロボロになり、至る所が欠けている。汚れと乾いた血に覆われて、顔は浅黒い。座り込んで岩壁に背を預け、地面を見つめながら力なくつぶやいている。


 「ああ、俺が馬鹿だったことは認める。


 軽い気持ちで転生を望んだのは確かだ。

 前の人生と違った明るく楽しい前向きで格好の良い生活を、神から手に入れた力を使って手に入れられると甘く考えていたところは認めるさ。


 だが、実際に異世界でこの世界の姿に触れて、俺は何とかしたかった。

 俺にできることで、手に入れた力で、何とかしたかったんだ。


 でも、考えてみれば、そんな力を俺に渡せるならこの世界の人間に渡せば良い話なんだ。わざわざ別の世界から来た人間にこの世界をどうこうさせる必要なんてないんだ。


 ところが俺は自分がさも特別であるかのように勘違いして……。


 だから俺が元の何もできない奴に戻されたのは馬鹿だったからと納得している。騙されたんだと判って腹も立つけれど自業自得だ。……地球で詐欺に遭った人を頭悪い奴と笑っていたじゃないか。その立場になっただけだ。


 でも……


 一緒に頑張ってくれた仲間はどうしているだろう?

 俺を愛してくれた女性達は……。


 みんな俺と同じように狙われてるんだろうな……すまない……。


 そしてこの世界はどうなるんだ?

 俺を崇め称えてくれた人達は……。


 俺に期待し、希望を持ってくれた人達にはすまないことをした。

 

 怪我を治す術もない、近くで食料を確保出来るのかも判らない。

 俺が死ぬのもそう遠くないだろう。怪物どもに食われるか、それとも食料見つけられなくて餓死するか、それは判らないが……。


 俺のこのつぶやきを聞いてる奴が居るのは知ってる。

 害意は感じないが、ずっと観察していたんだろ? 

 今も居るよな。だからこうしてつぶやいてるんだ。


 この世界の人間がどうなるのか見てくれ。そしてできることなら、彼らの未来が少しでも明るくなることを祈ってくれ。


 ……頼む。」


 撮影している間に、顔の汚れが涙で流れ、充血した赤い目がはっきりと表情に現れていた。動きらしい動きは無いが、俯き、ゆっくりと息する様子に彼の痛々しい気持ちが表れていた。

 その男の声に応えてやることも、どこかへ連れて行くこともひびき達にはできない。元地球人でも、この男は既にこちら側の存在なのだから。

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