第三章 第6話

 翌朝、ロディがレイGの幌馬車を引き、僕らはポルト岬にある港町ギースを目指した。

「ねえ、レイバー。あれ」

「ん?」

 馬上のロディが指を指す方向を見ると、何やら空に向かって伸びている巨大な大砲のようなものが見える。とにかくデカい。

「私も見るのは初めてだけど、話に聞いたことがある。あれって、ギースの飛水艇の発射砲じゃないかな」

「発射砲って……。まさか、あれで空を飛ぶのか」

 幌になっているレイGは、昨日はぶつくさ言っていたものの、今日は暢気にまだ寝ている。歩かなくていい分だけ、納得したのだろう。

 ギースは港町だけあって、まだ一定の活気を残していた。

 最大港のケプロと比べても、今はここノーゼルアン群島の中では一番元気があるように感じる。

 通りを進んでいくと、アメ売りのおばさんが気さくに声をかけてくる。

「兄ちゃん、嬢ちゃん。ギース名物・ココロンキャンディーはいかが?」

「わあっ、可愛い!」

 おばさんは肩から下げた箱に、色とりどりのキャンディーを差している。

 どれも、動物を形どったもので、大きな目が可愛さを倍増させているのだろう。

 僕がボケーっと見ていると、おばさんがおもむろに肘で僕の腕を突き、耳打ちしてくる。

「……ちょっと、あんた。男の子なら、ちょっとは嬢ちゃんにカッコいいとこ見せなさいよ」

 余計なお世話である。

 でも、キラキラとした目でキャンディーを見つめるロディを見ていると、思わず買ってあげたくなった。

「好きなの選べよ。買ってやるから」

「え……、ありがとう。レイバー」

 おばさんに代金を払って、アメを受け取る満面のロディ。

 たかだか、動物のキャンディーなのに、こんなに喜ばれては何だかこっちが照れくさくなる。

 目的地のギースに着いたし、後はアルアン大陸に渡るだけ。

 一日ぐらいは、遊んでもいっか。

「ロディ、発射砲に寄ったら、後は街をブラついて過ごそうか」

 彼女が嬉しそうな表情を浮かべて頷いたのは言うまでもない。

 なんだかんだ言っても、やっぱ可愛いなぁ。

 

 ――ギース発射砲台

 要塞とも呼べるような堅牢な門の入り口には、そう書かれていた。

 街の人の話によると、ここは市街区と切り離されて、軍の管轄だそうだ。

 いかつい門兵が、ギロリとこちらを見てくる。

 やだなぁ、なんか緊張しちゃう。

 どうしようか迷っていると、さっきまで立っていた門兵がこちらに近づいてくる。

 ちょ、ちょっ何?

 僕とロディが緊張で身動きが取れずにいると、門兵は幌馬車の前に止まり、最敬礼をした。

「レイG大使、任務ご苦労様でありますっ!」

 え、大使?

 この馬鹿スライムが……。

 たしかに、シーマさんも大陸からの使いと言っていたけど。

「ん、んあっ? オラは幌ズら」

 門兵の大声で、鼻提灯をパチンと弾かせ目覚めるレイG。

 寝ぼけ眼で、門兵のほうを見つめる。

「堅苦しい挨拶はいらないズら。さっさと、中に通すズら」

「はっ!」

 門兵は再び敬礼をし、門を開く。

 何とも急な展開に僕らが驚いていると、レイGは面倒くさそうに中に入るように促した。

「早く用事を済ませて、うまいゴハンを食べるズら」


 発射砲台での用事はそれほど時間がかからなかった。

 というのも、シーマさんが事前に連絡をして、色々と手筈を整えてくれていたらしい。

 発射砲の調整は、明後日までかかるとのことなので、僕たちは街に戻り、宿をとった。

 ここまでの道のりが色々あった分だけ、いざ大陸に渡るとなると意外とあっけないものだ。

 まぁ、何もないのが一番いいんだけど。

 僕とロディは、しばしの骨休めのため、バカ食いしているレイGを宿に置いて、街へと遊びに繰り出した。

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