碧い瞳の女の子

魔物園の拠点となる草原を見て以来俺はやる気が上がり次に捕まえる魔物について朝早くから色々と調べていた。

スライム、ウィルオウィスプ、ケルピー等々ゲームやアニメの中でしか見たことの無かった魔物について目を通して行った。

その中で、俺は調べる手を止めて気になる魔物の名前を目にした。

「……ゴーレム」

土人形と書かれるその魔物の挿し絵を見て驚いた。

細かく描かれた髪の毛に目、男性のゴーレムは屈強な体つきの戦士、女性のゴーレムは柔らかな線で描かれた乙女。どちらも人間と変わらない姿をしていた。

土人形がここまで精巧に作れるものなのか、俺は自問自答を繰り返す。土に人の顔を書き体を整え焼くという工程、その中で一体どうすれば髪や目をこんなにも細かく繊細に美しく作れるのだろう。

俺は腕を組んで悩んだ。

「おはようございます唐真様、何をお読みになっているのですか?」

居間にやって来たランが俺の手元にある本に視線を送る。

ランが降りてきたということはそろそろ朝食の時間ということだ、なので片付けなくてはならないのだが、ランは面白そうという風に近寄って来て覗き込む、顔ギリギリまで近寄るランにドキドキする俺、その際良い香りがして心臓の鐘が激しく鳴る。

心臓の音が聞こえないことを必死に祈った。

「へぇー、ゴーレムですか」

「見たことある?」

「いいえ、噂ぐらいでしか聞いたことがありません」

ランは純粋な眼差しでゴーレムの挿し絵を見つめていた。

ランにも知らない魔物がいるんだなと思いつつ、ゴーレムを見てみたいという気持ちが高まっていくのを感じた。



「ココロ、こっちこっち」

ココロは慣れない感じでこちらに向かって走る。何度か転けるもののしっかりと俺の元まで走ってきた。

家に帰ってから数日、ココロはここ最近になって立ったり走ったり出来るようになった。早く起きたというのもあり俺はココロを連れて魔物園の原っぱまで連れてきたのだ。

生き物は食物連鎖のなかで常に狙われることもあり成長が早いらしい。特にココロは人形等を見ると触ったり噛み付いたりという行動を見せるようになった。これも成長している証らしい。

魔物園の拠点である草原で今こうして走らせているのもココロのためである。

子の成長を見れずに終わったココロの母に代わってしっかり育てようと決めた俺は、余裕さえあればこうしてココロを鍛えている。

「よーし良い子だ。じゃあ次はこれな」

そういって俺は手のひらサイズの石を見せる。ボールが無かったため代用品として石を拾っておいたのだ。

それを目がしっかりと開いたココロに見せる。数秒間確認させた後、その石を思いっきり投げた。

「よし! 取ってこい!」

ココロは言われる前に走り出していた。やはり本能なのか動いている物に凄い興味を示す。

ココロの半分は虎なのでそういった本能が備わっていても可笑しくはないのだが、どこか気の抜けた性格をしてるため途中で追いかけるのを止める恐れがあった。

遠くまで走っていくココロを見る限りその心配は無いなと胸を撫で下ろす。

数秒後、ココロが石を咥えて走ってきた。

「よしよし、良い子だなココロは」

ココロは気持ち良さそうに顔をだらけさせる。その表情は猫みたいで可愛らしい。

「よし、もう一回投げるぞ」

今度は少し助走を加えてより遠くまで投げる。森の方まで石は飛ぶのだが、ココロは投げた瞬間に弧を描く先へと走り出していた。

本当元気に走ってるな、元気なのは一番だよな~、と染々思って見つめていた。

森の中に隠れていたココロは石を咥えてこちらに走って戻ってくる。逞しくなったなと涙ぐんで見つめていると、ココロの後方に人影の様なものがあることに気付いた。

「――猫ちゃん待って」

アハハという明るい笑い声。しかし遠くにいるため顔までは分からない。ココロは俺の元まで来ると俺の後ろに姿を隠す。どうやら怖かったらしい。しかし人影は止まる様子は無く猛スピードでこちらに走ってくる。嫌な予感がした俺は逃げようとするも時すでに遅し、人影に衝突され俺は下敷きにされた。ココロは運良く俺から離れたため回避することに成功した。

「いってぇ~……」

頭を強く打ったが草の上だったのが不幸中の幸いだった。もしここが硬いアスファルト地面だったら確実俺は頭から血を流していただろう。それだけの衝撃だったのだ。

「だ、大丈夫ですか?」

何とか頭だけを上げ、俺に覆い被さるように乗っている人物に声を掛ける。数秒しても返事が無かったため変なところでも打ったんじゃないかと思って手を伸ばすと。

「アハハ! すっごく楽しい!」

花火が打ち上がった様なテンションで笑い声を上げる謎の人物。猛スピードで走っていたため良く分からなかったが女の子だ。しかも気品溢れる服装。一体どこのお嬢様かと思って声を掛けようとすると。

「お兄ちゃんすっごく面白いもん、ベルと遊ぼう」

今まで埋(うず)めていた顔がこちらに向かれた。

淡い赤桃色の髪は後頭部に纏められている、お団子ヘアーというもので、前髪やサイドはショートで同じ長さに切り揃えている。あどけなさが残る顔を見るに13~14歳ぐらいに見える。

だが俺は彼女に一番注目したのは瞳だった。

美しい、とても美しい青、まるで宝石でも嵌め込んだかのようにキラキラと光る彼女の目には、年相応の無邪気さが垣間見える。ヨーンの瞳も蒼だが、こちらの青は『碧』というべきだろう。

「き、君、大丈夫かい?」

俺は小さい子に掛ける声で話しかける。

「うん、大丈夫だもん。ねぇねぇお兄ちゃん遊ぼう!」

ぴょんと跳ねるように起き上がった女の子は急かすように俺の腕を掴んで引っ張る。背中の痛みを感じつつ俺は起き上がった。

「君、名前はベルっていうの?」

星の輝きにも負けないほどの明るい笑顔を向けて彼女は言った。

「うん、ベルはね、リベルテって言うの、ベルって読んでほしいもん」

ベルはココロを見つけて再びアハハと笑って走って行った。

俺はその後ろ姿を見て思った。

「……変わった子だな」

それがリベルテへの第一印象だった。

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