2019/4/16 「Kali Linux」

 浦和駅のローターリーから件の外国人グループはいなくなっていた。

 太陽が街並の向こう側に沈み、街灯が付きはじめる。この時間特有の薄暗さに、心細さを感じながら自宅マンションへ向かう。

 入り口のオートロックと、玄関扉の二重ロックを開けて家にはいった。

「ただいま」

 返事がない。どうやら誰もいないようだ。

 通学カバンを自室の床に放り投げ、部屋着に着替える。

 そして、机の上に散らかっていたものをとりあえず脇に寄せて、空いたスペースに今日秋葉原で買ってきたもの・・・ノートPCとSSDを置いた。

「えーっと、プラスドライバーっと・・・」

 父親の部屋となっている納戸からドライバーセットを持ってくる。

 昨日めでたく初期化リカバリーした元から持っているノートPCで、中古PCの改造方法が詳しく書かれたWebサイトを表示する。

 バッテリーを取り外したあと、写真と買ってきたばかりの中古PCをよく見比べながら、底面カバーのネジを3本外す。

「外れない・・・」

 ネジはすべて外したはずなのに、カバーがどこかに引っかかって外れない。

 Webサイトをよく読み返してみると、ツメがついているのでそれに注意して外すように記載があった。

 いらないポイントカードを隙間に差し込み、ゆっくりと滑らせていく。パチッというあまり心臓に良くない音とともに底面カバーが外れた。

 ツメは折らなかった。よかった。

 冷却ファンやメイン基板のほかに、それとフレキシブルケーブルで接続されるサブの基盤がいくつか配置された、中古PCの中身があらわになる。

 小さい筐体に高密度に部品が配置される中、不自然のポッカリと空いたスペースに接続ケーブルSATAケーブルがぶらりと垂れ下がっていた。

 WebサイトでここがHDDの取り付け位置であることを確認し、買ってきたSSDへ接続ケーブルをつないでから所定の位置へ固定した。

 先にSSDがきちんと接続できたか、作業の際に中古PCを壊していないか動作確認をすることに決め、底面カバーとバッテリーを外したまま、ACアダプタを中古PCに接続する。

 そして、緊張しながら電源ボタンを押す。

 無事UEFIOSを起動するプログラム画面が表示され、ほっと胸をなでおろした。接続したSSDも無事認識されていた。

 UEFIの設定ドライブの起動順位を変え、外付けのDVDドライブを接続して、この間買った雑誌に付属されていたディスクを挿入する。

 設定変更を保存し、再起動をかける。暫く待つとOSのインストール画面が表示された。

 ところで、ペネトレーションテストという言葉をご存知だろうか?

 コンピューターシステムのセキュリティ対策の確認方法の一つで、実際にそのシステムをハッキングしてみて、きちんと対策できているかを確認するものらしい。

 今インストールしているKali Linuxはこのペネトレーションテストを行うために作られたOSで、そのための各種ツールが予めインストールされている。

 テストとはいえ、行うのは実際のハッキング行為と全く同じ。昨日ミラクルバイのサーバーをハッキングするのに使ったツールも本当はペネトレーションテスト用のものだったりする。

 もっとも今回は例のウイルス付き画像ファイルを詳しく調べてみるだけなのだけれど。

 無事インストールが完了の画面が表示され、DVDドライブを外してからリブートボタンを押した。

 こいつをサブのPCにして、いつも使っているPCをメインPCとして使うことにしよう。

 いつかやりたいと思っていたPCの二台持ちがこんな形でかなうとは思わなかった。

 OSが起動するまでの間に台所へ行き、お湯を沸かしてティーバッグで紅茶を作る。

 マグカップに追加で砂糖と牛乳を入れ、その場で一口飲む。

「ふぅ」

 脳にカフェインと糖分が染み渡り、心地よい疲労感を感じる。

 窓の外はもう真っ暗になっていた。

 マグカップをもって部屋に戻るとOS・・・Kali Linuxはすでに起動していた。

 件の写真を含め、ミラクルバイのサーバーからダウンロードしたデータが入ったUSBメモリを取り出す。

 昨日、PCを初期化する前に使っていないUSBメモリにデータをコピーしたんだよね。もう使えないかなこれ・・・ウイルスが怖くて・・・

 念の為、このサブPCをインターネットから切り離す。

 ウイルス時の画像ファイル”img.jpg”を表示する。昨日見たときと同様に真っ黒な画像が表示された。ウイルスはメインPCのOS用のようで、いきなりCPU負荷が上がったりすることはなかった。

 EXIFとよばれる、カメラの機種や撮影時の設定、カメラがGPS機能を持っていれば記録される撮影地点の緯度と経度などを記録する機能がjpegにはあるらしい。

 画像の詳細を表示させ、EXIF情報を表示すると、その中にGPS情報が記載されていた。

 緯度と経度で表されるそれを、一文字ずつ確認しながらノートにメモした。

 ダウンロードしたファイルのうち、大半はWebサイトを表示するためのPHPのプログラムのようだった。

 ぼくのあまり多くない知識を総動員した結果、ECサイトのあの画面を表示するためのプログラムである、と判断した。

 残ったのはそこそこ大きなサイズのバイナリファイル。

 fileコマンドファイル形式を判別するソフトで調べてみた結果、png形式の画像ファイルで有ることがわかった。

 逡巡ののち、画像閲覧ソフトにこのバイナリファイルを読み込ませる。

「QRコード?」

 画面には、メッセージアプリの連絡先交換のときとかで使うあれ、QRコードが表示された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スクリプトキディ:技術力の低いハッカーの蔑称のこと ゆーが @yuuga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ