第3話 馬鹿って言うヤツが馬鹿なのですぅ

 サラサから推薦された依頼を受けた次の日、家の前で出かける準備を済ませたホーラとテツと年少組で唯一のダンテの3人がレイア達に見送られていた。


「じゃ、留守を頼むさ」

「なんで、アタシ達だけ居残りでダンテはいいんだよ!」


 ブゥ垂れるレイアはホーラ達と同行するダンテを指を差す。


 指を差されたダンテは「僕は別に行きたい訳じゃ……」と、ぼやくがホーラに半眼で見つめられて口を閉ざす。


「昨日言ったさ? まずは情報集めをするさ」

「なんで、そんな面倒な事をするんだ? あんな弱い奴等だから、居場所を見つけて倒してしまえばいいんじゃ?」

「だから、それだと同じ事の繰り返しになるの! 昨日も何度も同じやり取りしてるの!」


 ごねるレイアにスゥも不満がない訳ではないが理屈として理解できており、レイアに説明する。


 レイアも全部を理解したかと言われたら出来てはいないだろうが、我儘だとは分かっていた。


「まあ、隠密を主だし、能力的にはヒースは連れて行ってもいいけど、劣化テツを連れて行く意味はないさ?」

「あはは、劣化程度じゃ済まない程、実力差がありますけど……」


 劣化テツ呼ばわりしたヒースであるが、テツとの実力差をはっきりと理解しており、悔しさを感じるレベルではない事は身を持って知っていた。


 レイアは駄目元というのを隠さずにハイハイと手を上げる。


「アタシも気配とかなら消せる。それに……」

「考える前に動く馬鹿は要らないさ? そういう意味ではミュウもさ」


 遠慮もない言葉でバッサリと切るホーラにレイアは真っ白に固まる。


 今までのやり取りを苦笑いで見つめていたテツはレイア達に話しかける。


「俺達がしなくちゃならない事も大事だけど、食糧の備蓄もそろそろ補充時だし、レイア達に頼みたいんだ」


 日々、忙しいホーラ達は資金面で物を買う事は難しくは無いが買うのは控えていた。


 節約を意識したではなく、モンスターや獣による危険だけではなく賊などからの安全が確保されない為、1年前と比べて流通量が下がっている為である。


 むしろ、遠征してホーラ達が多めに肉などを確保したり、まだ余裕のある隣国のパラメキ国から買い出しに出て、ペーシア王国の市場に流したりしていた。


 それらを処理したり、薬などを作る加工する職人達は1年前の誘致により、最低限は維持されているので、素材が圧倒的に足りてない実情があった。


 復帰したレイアも、そういう事情がある事は良く理解していたので言い返したくてもできないと悔しそうにする。


「分かった。こっちの方は私達が頑張る。任せて、テツ兄さん」


 不貞腐れる妹の代わりに姉であるアリアが胸を叩いて頷くのを見たテツが「お願いね?」と笑みを返す。


 胸を叩いた事で揺れたアリアの胸を見たヒースが顔を赤くし、それを見て絶望するレイアを眺めるスゥはクスクスと面白そうに笑う。


 我関せずといった風だったミュウはテツに向かって言う。


「お土産、期待」

「あ、あるかな?」

「ある訳ないさ!」


 困るテツとドヤ顔するミュウの頭を叩いて行くホーラがレイア達に向き直る。


「サボったら半殺しさ? 後、家の掃除もしとく、分かったさ?」

「「「「「了解しました!」」」」」


 カリスマ、ホーラの言葉に反射のように返事するレイア達。


 ホーラはやると言ったらやる姉である事は骨の髄まで叩きこまれているレイア達であった。







 レイア達と別れたホーラ達は徒歩で街を出て街道を歩いていた。


 城門から少し離れた辺りでホーラはテツに話しかける。


「それで、海賊のアジトの調べはどの程度付いてるさ? 街を出るのに何も言わない所を見ると見当は付いてるんだろうね?」

「ええ、見当を付けるつもりで昨日の夜に出ましたが、はっきりとアジトの在り処が判明してます」

「えっ!? 昨日の夜、テツさんが出かけたのは知ってましたけど、そんなあっさり?」


 昨日、テツは夕食が済んだ後、出かけ早朝にはテツの姿があったのでホーラもダンテも調べ切れてるとは思ってはいなかったので素直に驚く。


 驚く2人に逆に申し訳なさそうにするテツが言ってくる。


「一応、アイツ等は隠れてるつもりのようでしたが、座礁するのを恐れてか煌々と明かりを点けて入り江に入るものですから……」

「暗い中、そんな事したら……馬鹿さ……」

「やっぱり、ホーラさんとテツさんが仰るように独力で牢獄から逃げる腕も頭もなさそうですね?」


 ホーラとテツが、こいつ等の後ろに黒幕がいると睨んでいる事をダンテを連れて行く事を決めた時に伝えていた。


 ダンテも当然のようにその可能性は考えていたが決め付けは良くないと保留していた。

 だが、年長の2人の意見とお粗末な対応する海賊達が優秀な可能性は極めて、『ない』と言って問題はなくなった。


「それでアジトにしてるのはどこさ?」

「ここからすぐです」

「冗談ですよね? 一応、脱獄したての相手がこんな近くをアジトにしてるんですか?」


 本気で驚くダンテの頭をホーラが、とても残念そうにポンポンと叩く。


「ダンテ、アンタはまだ世界の馬鹿達の思考を知らなさ過ぎるさ。馬鹿は本当に馬鹿さ?」

「あはは……昔、ホーラ姉さんと2人でコミュニティの仕事してる時に指名手配されている貴族を捜し回っていたら、自分の屋敷に普通にいた、って事ありましたよね?」


 テツの経験した話に絶句するダンテにホーラが呆れを隠さずに言う。


「見つけた時なんて、呑気にお茶を飲んでたさ? ぶっ殺してやろうかと思ったけど我慢したさ?」


 肩を竦めながら「お仕事だからね?」と言うホーラの横で苦笑いするテツが世界の馬鹿に感心したらいいか悩んでいるダンテに告げる。


「殺しはしなかったけど、パチンコで爆裂させて屋敷を半壊させてたけどね?」


 話さなければホーラの株が上がった所を天然を発動させるテツが事実を話してしう。


 ホーラはそれに無言で抉るような殴り方をテツの頬に叩きこむ。


「なんで、殴るんですか? 本当の……」

「ああっ!?」


 絶妙の間で聞き返されるようにしたテツは条件反射で「なんでもありません」と聞き分け、ホーラ達を海賊のアジトへと誘導を始める。


 長男のフリを見て黙ってるのが吉と理解したダンテは、何も言わずに街道を外れて歩き始めた2人の背を追って歩き始めた。





 道なき道を歩いて30分経つとホーラ達は海に出た。


「あそこです」


 テツが指差す方向に気持ち、海から少し見え辛いかもしれない程度の入り江を指差す。


 呆れるホーラとダンテは後方にあるペーシア王国の港を見つめる。


「あのぉ~テツさん……僕の目でも灯台がはっきりと見えるんですけど……」

「馬鹿ってこんなもんさ? ただ、その馬鹿がこんな大胆な事を出来るという事は……」

「ええ、多少の事なら揉み消せる権力者か、力を有していると見るべきでしょう」


 そう言う3人が入り江を見下ろすが船の姿はなかった。


 船がない事を確認したテツは振り返ると言ってくる。


「居ない内に探れるだけ探ってきます。まあ、ここ見る限り、何も出てこないでしょうけど……」

「一応、気を付けな? 見張りを置くような頭は持ち合わせてないだろうけどね」


 ホーラの言葉に頷いたテツはダンテを見た後に告げる。


「ホーラ姉さんはダンテと海からお願いします。俺は別ルートから行きます」


 テツはそう言うと木々の中に溶け込むように飛び出していく。


 見送ったホーラはダンテに告げる。


「アタイ等はアイツ等の帰り待ちか、テツの報告がない限りする事は見張りのみ。休める内に休んでおくさ?」


 告げられたダンテが頷くのを見たホーラは木に凭れて目を瞑り、口を閉ざす。


 休めと言われたダンテだったが落ち着かないのか身を低くして海賊が帰ってくるのを見張り始めた。


 そして、海賊が帰ってきたのは陽が沈んで、しばらくしてからであった。

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