第2話 湧く虫が考える事はいつも同じなのですぅ

 海賊退治が済んだレイア達はペーシア王国の港に戻ってきていた。


 雄一がいなくなってから1年が経ち、再び、ペーシア王国で住むようになって半年が経って漸く腰が落ち着き始めていた。


 最初の3カ月程はナイファ国のキュエレーにあるミランダの宿、『マッチョの集い亭』で世話になりながら、雄一の情報もだが、同時期に四大精霊獣の姿も消えた事もあり、冒険者をしながら情報を集めていた。


 だが、情報の手掛かりもなく、ナイファ国内での雄一の人気、いや、信望者が多くおり、レイア達の風あたりが強く、その中にナイファ国の王女であるスゥがいる為、国への不信感を煽る形になった結果、多大な迷惑をかける事になった。


 キュエレーを出る最後のキッカケになったのが、永遠の二十歳の受付嬢のユリアの勇退(腰を痛めた)事が決め手になった。


 ユリアがいる間は目を光らせてくれており、一応の冒険者としての待遇をして貰えたがいなくなったと同時に露骨な嫌がらせが増え、仕事ができなくなった。


 元々、協力的ではない人達から集められる情報に限界があるという事で、パラメキ国に移動する。


 そこで2か月程、情報集めをしながら火の精霊神殿に頻繁に通った。


 雄一の事にしろ、四大精霊獣の事にしろ、レイア達が持つツテで一番確実性が高い人物である火の精霊のアグートとその加護を受けるホーエンに会う為である。


 しかし、話を聞きに行こうと何度も足を運んだが、ホーエンに「今のお前達に話す事は何もない」と追い返された。


 それでも何度も通ったが最終的には結界を張られて近寄れないようにまでされた。


 その結界を壊そうとレイア達はするがテツに「多分、壊せるけど壊して聞いてくれるだろうか? 俺は無理だと思う」とテツには壊せるようだが壊す気がないと言われて渋々引き下がった。


 スゥがポプリが火の精霊であるアグートに師事された事を思い出し、橋渡しを願おうというアイディアを口にするがホーラに被り振られる。


「アタイも早く情報は欲しい。でもポプリも余裕はないし、それにね……どうにもホーエンに試されてる気がするのさ。ユウが巴を譲られる時にされた時の試験をなんとなく思い出したさ」

「そうですね、ホーエンさんはあの戦争後、ユウイチさんと懇意にしてたようですし、何か考えがあるのかもしれません」


 そう年長の2人に言われると強行する意見がないレイア達であったが「じゃ、どうしたらいい?」という話になり、アリアが口にした意見が採用された。


「何をしたらいいか分からないなら、ユウさんならどうするか、で決めよう」


 始めはアリアが何を言いたいか分からない面子であったが、2,3の説明を受けて皆、理解に至った。


「ユーイ、きっと悪党退治する」


 何も考えてなさそうなミュウの言葉に一同が雄一ならやりそうと納得する。


 そして、どこが一番、自分達が力を振るえて、助けを求められている場所かを情報を集め、結果、国として弱体化が酷いペーシア王国にやってきた。


 レイア達にしても半年前まで1年間過ごし、知己もいる場所であった。


 やってきたレイア達は住人、冒険者ギルドにも歓迎された。


 これも全て、1年間、雑用依頼ばかりを受けて、レイア達自身が積み上げてきた信頼がモノをいった結果であった。


 あの不動産屋も本当にレイア達が住んでた家をそのまま空き家で待っていてくれたので今のあの想い出のある海辺の家を住処にしている。


 そして、レイア達は冒険者として活動を始めるが、ペーシア王国の冒険者ギルドにはナイファ国やパラメキ国の冒険者ギルドのように冒険者の余裕などなかった。


 両国とて足りてるとは言えなかったがペーシア王国の足りないレベルではなく深刻なレベルで掲示板に張られた依頼の数が冒険者の数の何倍にもなって選べる仕事はあれど、選んでる時間が惜しいという有様であった。


 なのでレイア達も目が廻る勢いで働き通し、ヘロヘロになって家に帰るという毎日を過ごした。


 レイア達にとって、雄一の事を考えずに泥のように眠れるのは有難かったとも言える。


 一日に多い時は3~5個の依頼を同時並行でやるようになり、実戦経験を沢山積んだレイア達は自分の力の使い方を自然に模索し、グングンと腕を上げていた。


 実践より勝る訓練なし、である。


 それでも長年の習慣か、早朝訓練は欠かさない辺り、レイア達らしい。


 そんな日々を半年過ごしたせいか、少しはペーシア王国の冒険者ギルドも落ち着きを取り戻した。


 単純に依頼が掃ける速度が上回ったというより、冒険者達の奮起にナリを顰めようという動きが見え、表面化するモノが減ったのが事実のようである。


 当然のようにレイア達の活躍の貢献も大きく、特にテツとホーラの『戦神の秘蔵っ子』以外の二つ名が生まれる程の活躍が大きかった。


 しかも、この二つ名は冒険者達の間で生まれたのではなく、討伐対象の悪党から生まれたようだ。


 テツは『青い旋風のテツ』である。


 梓を使うようになって生活魔法の風に青色が付くようになり、元々、生活魔法の風を多用するテツのスタイルで常に青い風を纏っていたので畏れから生まれたらしい。


 ホーラは『爆裂の女帝』という二つ名もあるが、悪党に一番浸透してるのは『火薬庫のホーラ』である。


 1つ目はホーラが多用する爆裂からきているが、2つ目の理由は言わずもがなである。


 そんな二つ名が横行する2人は、元々モテる要素を持ち合わせていたので、テツには露骨にラブコールを送る女性達がいて、ホーラには女として興味を持つ者より、『姐さん』として尊敬を男女問わず集めていた。


 テツは笑顔で対応はするがまったく靡く様子は見せないし、ホーラも鬱陶しいと酷い時は今日、海賊にぶっ放した水の魔法が込められた魔法銃を撃って追い払っていた。


 それがいい、と2人の根強いファンが存在しており、2人にとって二つ名が邪魔なモノになっていた。


 邪魔そうにする2人を羨ましいと思うレイア達がいたりしたが、とりあえず、レイア達にも余裕が生まれ始めた、今、ペーシア王国内で新たな問題が浮上しようとしていた。





 海賊退治をした事を冒険者ギルドへ報告しに来たレイア達は馴染みの受付嬢、サラサに話しかける。


 初めて、レイア達が来た時に揉めたサラサであったが和解して以降、良好な関係を続けていた。


「仕事、終わらせてきたぜ!」

「あっ、お疲れ様! まだこちらに情報は上がってないけど、レイアちゃん達なら大丈夫よね。事実確認はこちらでやっておくわ」


 そう言うと差し出された依頼書に『完了』と印を押すサラサ。


 レイア達を見渡した後、話しかけてくる。


「あ、でも一応、口頭だけでも説明しておいてくれる?」


 サラサはメモを取るつもりかペンを持ちながら聞いてくるとスゥが最初から説明をするのをフムフムと言いながら書きとる。


 聞き終えたサラサがペンの背でコメカミを掻きながら洩らす。


「珍しいわね。できれば討伐という依頼でホーラが助かる可能性がある方法を取ったのって?」


 そっぽ向くホーラにサラサが目を向けるがホーラが何も言わないので口の軽そうなレイアを見つめると予想に違わずにペロッと話す。


「ホーラ姉がキレて、いつものように魔法銃をぶっ放したんだ……イテッ!」


 無言でホーラに拳骨されたレイアは頭を押さえて屈みこむ。


 それを聞いただけで状況が浮かぶらしいサラサはクスクスと笑う。


「さすが『火薬……』、ゴホン、『爆裂の女王』よね?」

「おい、今、何を言おうと思ったさ? アタイは場合によっては冒険者ギルドを相手でも喧嘩するさ!?」


 サラサの胸倉を掴んで睨むホーラであったが、本来ならすぐに止めないといけない状態であるがテツは苦笑いし、レイア達はいつものが始まったと苦笑する。


 この2人、プライベートで一緒に酒を飲みに行く友達である。


 年が同じだった事から話すようになって気付けばそうなっていた。


 サラサは、軽い感じで「ゴメン、ゴメン」と謝り、ホーラに許しを請うとホーラも鼻を鳴らすだけで手を離す。


「しょうがないのよ。『爆裂の女王』と言っても分からない人がたまにいるのよ。それでも『火薬庫のホーラ』と言えば知らない人がいないの!」


 「不思議よね?」と言うサラサに「溜まったもんじゃないさ!」と再び、鼻を鳴らすホーラ。


 そんないつものやり取りをする2人を余所にミュウがお腹を抱えて呟く。


「腹減った」


 それを聞いた一同が苦笑いを浮かべる。


 ダンテが前に出るとサラサに話しかける。


「夕飯の支度もあるので明日、受ける依頼を受理して欲しいのですが、緊急性のある依頼あります?」

「緊急性のない依頼の方が捜すの楽よ? でもね……」


 からかうようにチャーミングにウィンクするサラサは机の引き出しから一枚の依頼書をレイア達に見えるようにカウンターの上に置く。


「できれば、これを受けて欲しいと思ってる。どうにも気になるのよ」


 その依頼書を覗き込むテツとホーラの目は細まり、ダンテも何かを思い出したように手を叩くと口にする。


「どこかで見たと思ったら、先月に僕達が捕縛した海賊じゃなかったですか?」

「そう、しかも、かなり罪を重ねてるはずの海賊なはずなのに『できる限り、捕縛』という変わり種のね」


 テツとホーラも気付いていたようで何かを考え込むようにするだけだったが、レイア達は思い出して首を傾げる。


「あれ? たしか投獄されたんじゃなかったっけ?」


 そう聞き返すレイアにサラサは声を顰めて言ってくる。


「先週、脱獄したらしいわ。昔ほど厳重ではないと言って海賊団の全てが上手く逃げ出せるほど間抜けになってるとは思いたくないのだけどね……」

「なるほど……俺の見立てでは正直、脱獄ができるような腕を持ってるようには見えなかった」

「まったく、こういう奴等が考える事は同じでウンザリさ?」


 顎に手をやり、更に目を細めるテツと苛立ちげに眉を寄せるホーラはキナ臭さを感じ取っていた。


 テツとホーラの反応を見て頷くサラサは更に依頼書をレイア達に寄せる。


「この『できる限り捕縛』という依頼、また受けてみない?」

「了解さ、『できる限り』頑張るとしますかね」


 依頼書を掴み上げたホーラは狩猟者の笑みを浮かべた。

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