エピローグ

 同時刻、冥府。

 地獄にも等しい世界の中に聳え立つ、超々高層ビルの奥深く。重厚な黒い扉の先にある、王の間。その奥にある、大小様々な骨を組み立てたような、禍々しくて悪趣味な黄金色の玉座に、足も届かない幼子が一人、ちょこんと座っている。

 死と冥府の王、ハデス神である。

 えらく目つきの悪い幼子にしか見えないハデスは、眠るように目を瞑っていたが、急にムスッとした。

「あいつら、神をなんだと思ってるんだ!」

 目を開けたかと思えば、急に怒り出した。ぶつぶつ文句を言いながら、ふと横を見る。

 玉座のすぐ横には、小型犬としか思えないケルベロスがいて、その中央の首があくびをした。すると、左右の首も、うつったようにした。

「ケルベロス」

 ハデスが呼びかけると、ケルベロスはハッとし、「キャンッ」という鳴き声を上げた。尻尾をフリフリしながら玉座の前に移動し、おすわり。それを見てニッとしたハデスは、後ろ手に、玉座の骨を一本抜き取った。

 幼子が持つにはやや大きく、太い。

「ほら、取ってこーい!」

 ハデスはその骨を、正面の闇に向けて投げた。

 ケルベロスはすかさずきびすを返し、その骨を追いかけて闇に消えた。

「ハッハッハッ、愛い奴め。………………遅いな」

 ケルベロスの無邪気な姿に、ハデスは満足そうだ。……が、なかなか戻ってこないと、途端に退屈そうにした。

 どこからともなくタブレットPCを取り出し、有名な某動画投稿サイトの鑑賞を始めた。

 そこへ、ケルベロスが骨を咥えて戻ってきた。

 骨だが、いまのケルベロスには少々大きく、重たそうな印象がある。

 中央の頭が骨を咥えているものだから、左右にある頭がその骨に押されて苦しそうだ。

 ケルベロスは玉座の前に戻り、おすわりした。頭を上げて、咥えた骨を取って欲しそうにするのだが、ハデスは動画投稿サイトを見るのに没頭していて気づいてくれない。

 いや、実は気づいていた。気づいていて意地悪をしているのだ。その証拠にこっそりとケルベロスを見ており、ニヤニヤしている。

 ハデスの忠犬と呼ばれるケルベロスは、我慢して待ち続けている。

 中央の頭は骨を咥えるのに疲れてプルプルと震えており、左右の頭はその骨に押しつけられているのが苦しくて、早く取ってくれと言わんばかりに、「キューン、キューン……」とステレオで唸っていた。


【完】

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死神麗子の献身 小野 大介 @rusyerufausuto1733

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