両手いっぱいの参考書と

水奈

prologue



目の前の茶褐色の小瓶を、ただじっと見つめていた。


半透明の硝子の瓶は、手に取るとカチャリと音を立てる。中には沢山の錠剤が数種類、ごちゃ混ぜに入っていた。

よくもまあこんなに集められたものだ。我ながら感心してしまう。2週間前から計画を立ててきて、今日、やっと、このプランを実行する事が出来るのだ。


ふと時計に目をやると、針は丁度9時を指していた。ママが仕事に行ってから、30分と経っていない。

……ママは悲しむだろうか。いや、悲しまないだろう。これだけ自分の身体に傷を付けても止めようとしない私に、もう愛想を尽かしているんじゃないだろうか。ママだけじゃない。パパも、妹の莉世りせも。


冷たい水を入れたコップを手に取る。コップを持つ左手は、手首から前腕にかけて無数に切り刻まれた傷のじわじわとした痛みで、少し震えていた。3日程前に付けた傷は、かなり深かったのか、まだ体液が溢れ出ていた。

右手に小瓶を持ち、そっと口元へと近づける。漢方薬と、甘ったるいオブラートの匂いが鼻についた。



……そろそろ、終わりにしよう。

みんなの望み通り、こんな世界から消えてしまおう。

こんな私が消えて居なくなるだけで、みんなが楽しく生きられるなら。



私は、小瓶に口をつけた。




2015年、11月2日、午前9時頃。

薬物多量摂取により、自殺を図る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る