最強トーナメント本戦

さあ、戦いだ! (しかし茶番)


 ダイタラボッチの肩に乗り、いざ大会会場へ……!


 が、試合はまだ始まってすらいなかった。

 トーナメントが発表され、パンフレットを配られただけだったのだ。


「そこの人! 出場者に乗るのは禁止です! 今すぐ降りなさい!」


 挙句の果てに格好つけていた木林は、スタッフから注意を受けてしまった。運営にダイタラボッチの持ち主であることを告げておらず、作者であっても部外者扱いだ。まぁそのおかげでこいつはやりたい放題な訳なのだが……。


 すごすごと降りる猫の着ぐるみ。『懐古主義!』と腹に書かれた文字が哀愁漂う。読める人間は限られているのだろうが、それでも辺りからクスクス声が聞こえ、着ぐるみの中の木林は顔真っ赤だ。


(なんだよ、まだ始まってもいないじゃないか……)


 仕方なくダイタラボッチにパンフレットを持って来させ(この時、体長約3m)、不正に居座っているVIPルームへと引き返す。初日に暴れ出し、大衆に恐怖をあおれたと考えていたが、思ったより皆冷静だったのが残念だ。


(しかし『ダイタラボッチ』って長くて言いづらいな。いい呼び名は無いだろうか? ダイちゃんとかタラちゃんはクレームきそうだし、ボッチは可哀想だ。うーん……ダッチは!? いかんいかん、危険すぎるっ)


 

 そして第一回戦がようやく始まった。ダイタラボッチは二日目からの出場予定で、今日は敵視察という名の試合観戦だ。


 観客席から試合を眺める木林、本日はサングラスをかけたヒョウ柄の着ぐるみを被っている。その異様さに周りの客はドン引きし、満員御礼の座席が半径50センチ程の空間を作っていた。

 間違っても「お菓子のキャラクターかな?」とか「チーターと掛けているのか?」等と突っ込んではいけない、それこそ木林の思う壺だ。


 第一試合は火花の散るような近接戦、第二試合は会場が吹き飛ぶほどの魔法大戦が繰り広げられた。


 熱い攻防が繰り広げられる度、木林は他の観客と共に熱狂し、声を上げる。

 あぁやはり間近で見る試合はいいものだ。これだけでも異世界まで足を運んだ甲斐かいがある、来てよかった……。


 試合は続き、問題の第三試合へと差し掛かる。いかにも異世界の住人らしい二人の男女が互いに睨み合う。

 確か一方は、ダイタラボッチを見物しに来た娘だった気もするが……。

 何にせよ、これに勝った方がダイタラボッチと戦うのだ。

 

 ……そして予想外の結末を迎え、第三試合は終わった。


木林(成程ね……クックック……)

 

 アナウンスが決着を告げる中、着ぐるみは席を立った。



 出場選手の控室が並ぶ区画、ヒョウ柄の着ぐるみはいた。関係者以外立ち入り禁止である為、運営側に発見されると非常にまずい。色んな意味で。


 物陰から伺っていると、突然後ろから着ぐるみの尻尾を引っ張られた!


「おい誰だ!? やめねぇか!!」


 威勢よく怒鳴り振り向くと、尻尾を掴んだ幼い子供が!


「ねぇねぇ、なにしてるの?」

「なんだねチミは? あーわかったぞ、迷子だな?」

「しつれいねー。あたしは『しゅつじょーしゃ』なんだからねっ!」

「は?」


 パンフレットを見るとそれらしき名前。まさか本当に出場者なのか?


「ここはかんけーしゃいがいは、はいっちゃだめなんだよー?」

「し、失敬な! 私はだな……!」


 と言いかけ、木林は何かひらめく。


「実はオイラ、ある人の応援に来たんだ。でも場所がわからなくて迷子になっちゃったんだよー。一緒に連れてっておくれよー。えーん、えーん」

「……あたし、もうすぐ『しあい』あるから。すたっふのおねえさんにきいてよ」


 そんなことしたらとっ捕まってしまう。仕方なくパンフレットの案内地図を見ながら女の子に聞き、場所を特定するのであった。

 女の子が言うには、選手同士のトラブルを回避する為に、いくつかの区画に分けて控室が設けられているらしい。そして目的の区画はここから離れた場所にあるという。


 木林は女の子に礼を言い、教えられた場所へと猛ダッシュした。


(ぜぇ……ぜぇ……い……いたぁ……ジャック……!)

 

 話ながら向こうから歩いて来る四人、その中に先程勝利したジャックがいる!

 木林は勢いよく飛び出し、盛大にずっこけた!


「うえーん! いたいよぉー! 起き上がれないよー! 誰かー!」


 困惑し、互いに顔を見合わせる四人。仕方なく木林を立たせてやった。


「ありがとうっ! これをあげるよ! 明日もがんばっておくれよ!」


 飴玉を渡し、再び猛ダッシュでその場を立ち去るのであった。



(クックック……うまくいったぞ。……感度良好、何が聞けるかな?)


 第四試合が始まろうとしている会場。コーヒーを飲みながらヘッドフォンを付けている着ぐるみは、再び観客席に座っていた。

 先程、ジャック達に渡した飴玉には超小型の盗聴器が仕込まれていたのだ。試合を有利に運ぶ為とはいえ、どこまでも姑息こそくな変人である。


(おぉ…何か喋ってるぞ!)


……


『ねえ。さっき貰った飴、食べる?』

『よせ、毒かもしれない。好意だけ受け取っておこう』


ピ──……ザ──…… 


 ここで話は終わってしまった。


「おいぃぃぃぃ!? 高かったんだぞこれ!!!」


 怒りの雄叫びも、何故か飛ばされている観客のヤジにかき消される。

 雰囲気に流されるように、木林も持っていた物を放り投げた。


『うわぁ! やめてよぉ!』


 コーヒーはあろうことか、出場者の少年へ盛大にぶっかかってしまった!


(あーやっちゃったぁ! ……私は何も見なかった、うん)

 

 あの少年が負けたら自分のせいにされかねない。

 明後日の方向を向きながら、何事も無かったかのように座り直すのだった。

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