第三節

 次の日、オレは寝不足でなかなか起きられず、もういっそ休んでしまえと諦めていたんだけど、母に怒鳴られ、その手先の妹にベッドから落とされ、部屋の外まで引きずり出されて、無理やりにでも起こされた。

 女どものひどい起こされ方にキレそうだったけどなんとか我慢して準備し、ふらふらしながらも登校を果たした。

 我慢強くて律儀な自分を褒めたいよ。

 ただ眠気がピークだったから、一時限目と二時限目の授業は寝て過ごしちゃったけどな。体育じゃなくてほんとに助かった。

 翌日、日曜日だから時間を気にせず寝ていると、昼過ぎ、いい加減にしろって妹に叩き起こされた。布団ごとベッドの下に引きずり落とすというひどい方法で。おかげで肘がビーンと痺れて、すっかり目が覚めた。

 いくらなんでもひでぇ。実の兄に対してすることじゃない。

 さすがに腹が立ったから、「バカかおまえ!」って大声で怒ったら、「昼過ぎまで寝てるアンタが悪いわ!」って逆に母さんに怒られた。

 これが墓穴を掘るってことなんだろうな……。

 朝早くに放送してる子供向けアニメの録画を観ている妹の横で、オレは冷めた昼食を食べながら、なにか仕返しできないかとずっと考えていた。だけど、何をしても怒られるだろうから、悔しいが、ここは兄として我慢することにした。

 それにしても、近頃の妹は本当に生意気だ。兄を兄とも思わないあの仕打ち。変な落ち方をして、怪我でもしたらどうするんだか。例えば、頭から落ちて首の骨を折るとか。

 ここはあれだ、兄として、他人を思いやるということを教えてやらなきゃいけないかもしれないな。

 あ、「他人を思いやる」で思い出したけど、サイコパスって他人を思いやることができないんだったよな、確か。

 まさか……? いやいや……だがしかし……妹がサイコパスだったらどうしよう……。

 なんて、アイツの性格からしてさすがにないだろうけど、万が一ということもあるし、念のため調べてみたいと思った。

 そこで例のサイコパス診断を試してみようと、わざわざ親父のパソコンとプリンターを使って印刷して見せてみたんだけど、「なにこれ、キモい!」と言われて投げ返された。

 せっかく印刷までしたのに……。

 なんかもったいないから、次は母さんで試してみようと思ったんだけど、ろくに相手してくれず、話が中間テストに向きそうだったので逃げた。

 最後は親父だけど、日曜日だから酒飲んでて、もう酔っていて使い物にならなかった。

 どいつもこいつも……。

 残念無念でガッカリなオレは、なんか無性に他人の答えが聞きたくなってて、こうなったら家族以外にも試してみようと思った。例えば友人とか。でも、これってけっこう難しいかもしれない。

 こういうことに興味を持ちそうな奴の当ては何人かいるんだけど、きっともう知っている気がする。かといって興味の無い奴に持ちかけても、母さんや妹のように相手にしてくれないだろうし、それだけならまだいいけど、質問が質問だから気味悪がられるかもしれない。下手したら嫌われるかも。それで関係が悪くなるのは嫌だ。今ってちょっとしたことでイジメに発展するから怖いし。

 そうなると、サイコパスに興味が無いか、知らなさそうで、危ない質問をしても大丈夫そうな奴ってことだけど、さすがにそんな都合が良い奴はいないだろう……と思ったけど、一人いた。

 マサだ。正義(まさよし)。

 小学校からのクラスメイトで、まぁまぁ仲が良い。マサなら大丈夫だと思う。アイツは良い奴だし、オレのマニアックなところや、いい加減な性格をちゃんと知ってる。それに頭が良いから、あの診断を試しても真に受けたりはしないだろう、きっと。

 ただ、一つ問題がある。マサのスケジュールだ。

 マサの親はきびしくて、ほとんど毎日塾とかピアノの教室に通わされている。だから、もう一年ぐらい一緒に遊んだ記憶が無い。

 マサはほんとに良い奴だから、頼めば習い事をすっぽかしてくれるだろうけど、そんなことをしたら後が怖い。

 マサの母親はヒステリーで、キレたらやばい。テストの採点ミスがあっただけで校長室まで怒鳴り込んだぐらいだ。いわゆるモンスターペアレントだ。

 もしかしたら、あの母親がサイコパスかもしれないな。充分ありえるよ。

 父親のことはよく知らないけど、母親はそういう人だから、ダメならダメで素直に諦めよう。面倒なのは嫌だ。

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