第2話 加藤龍太郎
加藤龍太郎。
それが俺の名前だ。
本当は加藤太郎という名前になりそうだったが、爺ちゃんがそれは酷だろうと、太郎の前に龍という名が付き、今の名前になった。爺ちゃんナイス。
さて、ここで加藤龍太郎の履歴を軽く語るとしよう。
中学卒業後、私立の工業専門学校の機械工学科に入学。五年の過程経て、部品の設計製作、加工製品製造の会社に就職。設計部署に同期と共に配属された。最初は仕事を学ぶため各部署で働き、それから五ヶ月。同期は設計部署に先に戻るが--龍太郎は戻れなかった。そのまま一年と半年、製造部署で働いた。製造部署の担当者は「お前な、今の会社は昔と比べてな」と言って、人の名前を一度も呼ばず、昔の仕事を何度も引き合いに出してパワハラ紛いのことをした。それを製造部署の上司に報告するも、状況は変わらず。仕事に対しても嫌気がさし、仕事を辞めた。
後悔は--ない。
親は何も言わず暖かく迎えてくれた。
そんなわけで、現在。
年は二十二、職業は元作業員の無職に。これが今の龍太郎が語ることができる社会的な肩書だ。
なんとも寂しい。
資格は工場で取ったフォークリフトの運転資格と工場内でのクレーン操作、後は材料をチェーン等をクレーンに引っ掛ける資格位だ。
仕事を辞めて三ヶ月。
夏の猛暑が始まりだす六月上旬の土曜日。
龍太郎はいまだ仕事に就けないでいた。
………いや、いやいや。そんな呆れないでほしい。
仕事を辞めすぐさまハローワークで求人票を探したさ。ないね。うん。ない。良さげなものを見つけ面接をするも、結果はダメ。
面接官が言うには、
『人柄が良いが、もう少しコミュニケーション能力があってほしい』
『ウチの会社のことをイマイチ理解してない』
『君なに? 最初から入れるわけないだろ』
と、散々な結果だ。
最後の面接官に関しては求人票とは違う内容で話を進め、最終的には何故か向こうから要らないと言われ面接が終わっていた。解せぬ。
まぁ、此方からお断りだけど。
「龍太郎、少しいい?」
「……なに、母さん」
「今から庭の掃除するし、龍太郎も暇なら部屋の片付けでもしたらどうだい」
「あー、うん。わかったよ」
龍太郎は軽く返事をする。
特にやることはなかってので、部屋の片付けをすることにした。階段を上がった左の突き当りの部屋。
ガチャり。
まず視界に映るのは、小学生の頃から使い続けた上がベッドで下が机になっている一体型のロフトベッド。一足が折れているキャスター付きの椅子。二十年前から敷いていたカーペット。読まなくなった週刊誌の山とそのおまけ。カードゲームの束に誇りをうっすらと被るパソコン。大量の本が詰まった本棚が三つ。そして、折り畳み式のベッドが一つ。
それらが八畳ほどの広さの部屋に収められている。
……どこから手つけるかな。
いっそ殆ど片づけるか。
ロフトベッドはもう机の部分しか使ってないし、読まない漫画は売って、週刊誌は捨てて、カーペットもお疲れさんと気持ちを込めて替えておこう。椅子は使えなくはないが危険だから捨てておく、一度転倒したことあるし。カードは売りたくないから、保管しよう。パソコンは一度掃除して、本棚の整理もしよう。
片付けを始める前に折り畳み式のベッドを畳んで部屋の隅へ。
まずは捨てることが確定している小物類はゴミ袋に燃えるゴミとプラスチックに分けて捨てる。本棚から本を抜き売る本と売らない本に仕分けして、売る本は紙袋に、売らない本は使ってない部屋に一時置いておく。週刊誌のように売れない本はビニール紐で結んでおいた。
一時間ほどで、大体は片付いた。
あとは椅子とロフトベッドをどう片づけるか、だ。椅子はそのまま捨てれなかった気がするし、このロフトベッドはベッドの手すりがアルミパイプになってるし。
龍太郎は顎に手を当てて、思わず考え込んでしまう。
「どうしました?」
「椅子やロフトベッドをどう片づけるか、ちょっと」
「椅子とロフトベッド、ですか」
……ん?
「椅子は大きさや材質で異なりますが、この椅子は金属の比率がおそらく八十㌫以上あると思いますので、金属ゴミとしてそのまま解体せずに捨てることはできますよ」
……んん?
「ロフトベッドは各パーツに分けたとしても、大きすぎるので捨てれません。アルミパイプは椅子と同様に金属ゴミとして捨てれます。その他の木製パーツは一辺が七十㌢以下にすれば燃えるゴミとして捨てれますので、ノコギリか何かで切断しましょう」
……ん、んん?
「本類を纏めるのにビニール紐を使うのはいいのですが、持ち上げた時に隙間ができてますね。それに本を重ねすぎてバランスが悪いです。隙間も広いですし、倒れる危険性もありますので--直しておきますね」
「いや、ちょっと待て」
纏めた本を前に、片手にハサミを持ちながら屈む人物に三度の混乱状態から持ち直した龍太郎は待ったをかける。
相手は頭に?マークを浮かべ、首を少し傾げる。
状況にいまだ追いついていない頭をなんとか働かせ、目の前の人物を観察し、
「……あれ?」
なんだか見覚えのある顔だ。
顔立ちの整った凛々しい顔。百七十を超える龍太郎より少し低い身長。長い後ろ髪はポニーテールで纏められ、ゆったりとした服を着ている。それに、特徴的な右目の泣きぼくろ。
そこまで観察してから、気づいた。
「……あー、もしかしてだけど、茅ちゃん?」
「はい、お久しぶりです。龍兄さん」
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