第6話 有給使って異世界捜索

「おかんを助けるために皆がここまでしてくれているんだ。

 俺が尻込みするわけにはいかないよな……」


 口に出すことで自分の背中を押した。

 皆が力強く頷いて応えてくれる。

 このメンバーならばきっと魔王の元まで辿り着けるはずだ。

 そこから先は皆の思いに報いられるように俺が頑張るしかない。


「ただ──

 皆に頼みがあるんだ」


「頼み? 今さら水臭いな。何だ?」

 金色の髪を揺らして小首を傾げるエリカ。


「二日だ。

 ……二日で魔王の元まで辿り着きたい」


 俺の言葉に再び空気が張り詰める。


「随分厳しい条件ね。

 どうして二日なの?」


 スーリの戸惑いはもっともだ。

 広大な闇の森の中心にあると言われる魔王の城まで二日で行くには、その手前で待ち構えているであろう魔将軍達との戦闘も短時間で決着をつけねばならないし、そう簡単に決着がつかないであろうことは目に見えている。


 けれども、俺に許された時間を考えると、その無茶を押し通すしかないのだ。


「無茶を言っているのはわかっている。

 しかし、俺に許された時間は二日しかないんだ。

 それ以上は──」


 エリカ、スーリ、レンが息を呑む。


有給休暇ゆうきゅうが取れないからだ」


「「「…………」」」


 夜の集会所に、フクロウの鳴き声が響き渡った。


「ユウト……。

 こないだも言っていたが、そのユーキューというのは何なのだ?」


 どうにも的を得ないといった顔でエリカが浅いため息をつく。


 新入社員で、しかもここ一週間母の体調不良を理由に定時上がりさせてもらっている俺が有給休暇の申請をするにはせいぜい二日が限度だろう。

 それ以上休むとなると、それこそ課内での風当たりが強くなる。


「すまない。詳しい事情は説明しにくいが、現世界あっちでの事情にほかならない。

 とにかく明日は朝から異世界こちらへ来ることにする。

 なんとか二日でおかんを助け出せるよう、皆の協力を仰ぎたい」


 三人の前で深く頭を下げると、短い沈黙の後でレンがふっと笑みを零した。


限られた時間タイトスケジュールの中でいかに効率的ハイパフォーマンス課題アジェンダを達成できるか、極限の状態コンディションの中でそれを経験していくことは我々パーティの実力を底上げし、相乗効果シナジーを高めるためには非常に有益べネフィシャル実地訓練OJTとなるだろう。

 よし、燃えてきたぞ!

 俺たちならばきっと結果にコミットできる!!」


 さすがは意識高い系魔導師だ。

 レンの若干意味不明なテンションの上がりように、エリカとスーリにも笑みが戻る。


「そうだな!

 制限時間のあった方が戦いも燃える。

 明後日には必ずおかんさんを救出するぞ!」


 誰からともなく立ち上がり、四人の拳を重ねていく。


 パーティとしてこれ以上ないというくらいに燃える心を一つに合わせて、翌朝俺たちは闇の森へと足を踏み入れたのだった。


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