第5話 定時上がりで異世界捜索

 異世界の夜は早い。そして暗い。


 電気がないため、日の入りとともに暗くなるとオイルランプや蝋燭の明かりだけが頼りとなる。


 必然、人間の活動は制限され、夜は魔物が跳梁跋扈する世界となる。


 したがって、俺が定時後に異世界でおかんを探すというのは、昼間なりをを潜めた魔物と接触するには意外と好都合であった。


 バイト先の食堂が休業中のため、エリカは日中の空いた時間に我が家に来ては、俺とおとんでは手が回らない洗濯や掃除を引き受けてくれた。


 使ったことのない家電製品の操作は「とても簡単だ」と難なく慣れたばかりかその性能に舌を巻き、電気のない異世界に持ち帰れないことをひどく残念がっていた。


 家事が終わると村へ戻り、ギルドから紹介された簡単なクエストをこなしつつ、おかんに関する情報を集めてくれる。

 日没後、俺がパウバルマリの村の集会所に転移するとエリカ達のパーティが集まっていて、エリカの集めた情報を元におかん捜索に繰り出した。



「捜索を続けて一週間か──」


 今日も一つの森を探索し終えて村の集会所へ戻ってきた俺たちパーティ。


 エリカが集めてくれた魔物の出没情報を元に森の中を探し回るが、この一週間で出会い戦った奴らは中級以下の魔物ばかり。

 組織的におかんを拉致する知能など持ち合わせるはずのない奴らばかりだった。


 ワーウルフ、ホブゴブリンが十数体集まり、おかんの拉致という一つの目的を遂行するということは、やはりそいつらを統率できるだけの力と知能を持った上級魔物の仕業なのだろう。

 事実、現場に居合わせたエリカが攻撃しても、エリカに対しては必要以上の攻撃はしてこなかったらしい。

 まるでおかんさえ連れて戻れば自分たちの目的は達成されると言わんばかりに──


「やはり……

 魔王の居城のある闇の森へと足を踏み込まねばならないのではないか」


 エリカの張り詰めた声に、パーティの全員が息をのんだ。


「確かに、魔将軍と呼ばれる上級の魔物達は闇の森に集中しているだろう。

 だが……。

 皆知っているだろう?

 先代の魔王が伝説の勇者に倒され、新たな魔王が誕生してから37年、魔王討伐に出た者で無事に戻ってきた者はいないと」


 意識高い系魔導師のレンが重苦しい声を絞り出す。


「しかし、魔将軍レベルであれば、これまで数組のパーティが戦って勝利を収めている」


「おかんが魔王の元に捕えられていたらどうする?

 その時は魔王との戦いは避けられないだろう」


 弓の使い手であり、パーティで唯一のエルフであるスーリが俺に不安げな眼差しを向けた。


「それに、ユウトはこの一週間の実践でかなり腕を上げたとはいえ、まだ駆け出しの勇者よ。

“終焉の太刀” で魔王を絶命させるのは荷が重すぎるんじゃない?」


 そう。

 いくらパーティが強くても、最終的に魔王を倒せるのは勇者の “終焉の太刀” に込められた力だけなのだ。


 背中に氷の剣を当てられたように身がすくむ。


「今回の目的は魔王討伐ではなく、あくまでおかんの救出だ。

 絶命まで行かなくとも、深手を追わせられればおかんを助け出すチャンスは十分あると思う。

 すべては──ユウト次第になると思うが」


 期待を込めるように、一方で俺の身を案じるように、エリカが俺の瞳を覗き込んだ。


 おかん救出のために闇の森に踏み込むかどうか。


 俺の出す答えを皆が待っていた。

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