第5話地球平和とは

 悠太は街の中を歩いていた。街の中心にある複合施設で大好きなヒーローショーが行われていて、そのショーを観に行くために出かけていたのだ。ヒーローショーが行われるという情報は母からではない。そして母と観に行かなかった。他に行く人ができたからだ。その子からの情報だった。誘われたときはひどく驚いた。自分が戦隊ものを好んでいることを知っている人はいないと思っていたのに。それに加えて、その子も戦隊ものに興味があったとは。彼女いわく、最近かっこいいヒーローに出会ったらしく、そこから興味が湧いたのだという。


 「今日は来てよかったね。相変わらずヒーローはかっこいい」


 「そうね、特にブルーがかっこいいわ。せいぜい悠太君はブルーを近くでみることがあるくらいでしょうけど、私は手をつないで猛ダッシュしたんだからね」


 「なんだよそのへんてこなエピソードは。僕がレッドにヒーローのなり方を教わったっていうエピソードの方がかっこいいな」


 隣で歩いていた杏里紗さんは少し膨れながらも口角は上がっていた。


 複合施設を出て、帰りのバスへ乗るために停留所まで向かう道すがら、さすが街というだけあって小学生二人からは大きなものばかりだった。足早に過ぎ去るスーツ姿の男女。巨大な看板に映し出されたアイドル。自分たちが歩いている隣を往来するトラック。しかし、悠太も杏里紗も恐れはなかった。よくある話で、西部劇を見た終わった男たちはそろって両手をジーパンのポケットにしまい、意気揚々と帰っていくというものがあるが、それは西部劇に登場するガンマンの堂々たる姿に憧れを抱き、その輝きが体現されているのだという。二人はちょうどそれに近いものを感じていた。


 最初に気付いたのは悠太だった。バス乗り場の近くまで差し掛かったところで歩道橋を渡らなければいけなかったのだが、その歩道橋のちょうど目立たないところに銀色のアタッシュケースが置いてあった。


 悠太が、あっ、と声を出すと杏里紗も気づいたらしかった。そしてその時には二人ともこのあとどうするべきかわかっていた。


 「見てるだけじゃだめだ、行動せよ!」




 赤城は事務所のソファで寝転がり、一人スマホをいじっていた。なんとなくネット記事に目を通そうとしていると、トップ記事に「地球平和」という文字があったのでなんとなく開いてみる。


 記事にはおよそこう書いてあった。昨日、小学生二人によって届けられたアタッシュケースから新型ウイルスが拡散される仕組みの時限爆弾が入れられていたらしく、すぐさま処理された。もしも、この時限爆弾が作動していたら予防法が見つかっていない新型ウイルスの影響によって人類に甚大な被害を与えたであろうことが予想された。発見した小学生二人は恥ずかしいのかよくわからないが名前を非公開にするようお願いしたらしい。記事の最後には「まるでヒーローさながらの活躍」と締めくくられていた。


「おいおい俺たちの面目が立たないじゃねーか、めんどくせー」



 横田は駅前のカフェでノートパソコンに拝んでいた。パソコンの経済新聞によると、新型ウイルスの開発に関わっていた企業がとことん風評被害に遭い、株価が大暴落しているらしい。その中の一つに横田が屋上の催事場で株の購入狙っていた企業が含まれていた。


 「金は本当に一銭ももらえなかったけど、あの仕事やっててよかったー!」


 横田は心の中でそう呟きながら、ブラックコーヒーの最初の一口をすする。



 青木は小学校の近くの道でやり場に困っていた。目に前にはランドセルを背負った女の子が一人立っている。青木が近場に住んでいることを彼女は突き止めたらしい。


 「いやー、告白と言われてもね。とても嬉しいんだけどさ。あのときは迷子を助けている自分の活躍をみたお母さん世代からモテモテになると思ったんだけどな、あはは」


 青木はあの時と同じ穏やかな表情となる。まさかあの仕事を請け負って、小学生からモテるとは思わなかった。青木は右手で髪の毛をかき上げる。少し赤らんだ頬の肌に心地よい風が吹く。



 目黒は会長とともに昼食を食べていた。事務所の近くにあるそば屋で、メンバーのうち会長と目黒だけが気に入っている。会長はいつものざるそば大盛りで、目黒はかしわそばを頼んでいた。


 「それにしても会長。もうそろそろ危険な任務は勘弁してくださいよ。いくら敵の一員と顔が似ているからって敵のボスと直接やりとりするなんて怖くて仕方ないんですからね」


 「目黒は心配しすぎじゃ。お主とユールは瓜二つだから、アヤマラネーゼが気づくことはないじゃろ」


 「そんなぁ。でも、あの一件って、確か地球平和ができるとかなんとか言ってましたよね?本当にできたんですか?」


 「そんなもんわしに聞かれてもしらん。すべては成り行きじゃ」


 目黒は呆れて二の句が継げない。会長は隙をついたかのように目黒の鶏肉を一切れ割りばしでつまみ、そのまま口に放り込む。


 「会長!それ最後の一つだったんですよ!楽しみにしてたのに!」


 「いやー目黒、ごめん、ごめん、ゴメンジャー」


 会長は背もたれに寄り掛かりながら爪楊枝が置いてある場所に手を伸ばそうとすると、 そば屋らしからぬ曲が流れた。あんぱんとばい菌が並んでダンスをするその曲は会長の懐から聞こえる。会長は手の側面を縦にしながら携帯に出る。


 「おお、お主か。ミッション成功か。てことはちゃんと振り込まれたんじゃな?これで孫へのクリスマスプレゼントも安泰じゃわい。」


 会長はこの一件について何か企んでいたに違いない。でも、全ては丸く収まったのではないか、目黒はそう思いながらそばをずずずと啜った。


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すみま戦隊ゴメンジャー うにまる @ryu_no_ko47

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