第3.5話屋上の頂上

 横田はグラフの動向が気になっていた。今最も注目を集める企業が上場し、株の公開取引が可能となったのだ。横田は株価の推移を目で追いながら自分が取引をするタイミングを今か今かと伺っていた。


 人差し指をスライドし、更新ボタンをクリックする。ブラウザがリロードしている間、横田は画面から顔をあげ、辺りを見渡した。遠方から見覚えのある二人がこちらに向かってくる。仕事の出番だ。派手な色のキャップを目深にかぶり直し、掛けていた眼鏡を取り外した。操縦室の扉を開け、持ち場へと向かう。遊園地の作業着など始めて着たが、思ったより重量感があり、あの作戦がうまくいくかどうか少し不安になった。


 「佑二は見た?レッドのあの表情!なんでお前たちがいるんだ?!って顔してたわよね。ゴレンジャーの作戦はバレバレってことにいつ気づくのかしら」


 「私たちの作戦はまだ終わってない。次の行動を確認するぞ」


 「ちぇ、つまんないのー。とりあえず、男子の姿を双眼鏡で追って、もし怪しい人物が近づいていたら携帯であんたに知らせればいいんでしょ?」


 「ああ。ヒーローたちの顔を見つけたらその位置と状況を報告してくれ。私は星奈が乗ったのを確認したら社長のところへ戻る」


 「佑二は社長に好かれていいよねー。それにしても観覧車乗るの久しぶりねー。中学生以来乗ってないんじゃないかしら」


 男女二人組は話しながら足早に観覧車乗り場へと近づいていく。


 やがて女が先にゴンドラの中へと入った。


 「あなたは乗らないんですか」ゴンドラの扉を開けながら横田は尋ねる。


 「彼女もの好きで、一人で観覧車乗りたいって言うんですよ」男は応える。


 「それじゃきっと彼女にかわいそうですよ」


 横田はそう呟きながら男の背後に素早く回り、男の右手を背中に引っ張りながら、ゴンドラの方へ身体に力を込めた。男はなすすべなく女の乗っているゴンドラへと乗せられる。男が何すんだ、と言う頃には横田はゴンドラのドアを閉めていてた。ゴンドラはゆっくりと地上を離れ、上へ上へと移動していく。


 横田は操縦室に戻り、ゆっくりと動く観覧車を眺めた。株価の動きもこんなにのろまだったら苦労しないのだがと思ってしまう。男女が乗ったゴンドラが頂上に到達したところで、横田は観覧車の停止ボタンを押した。続けてメガホンの電源を入れる。


 「残念だったなユールとセネー。あんたらはしばらくそこからの景色を楽しんでもらうことにするよ。だいたいね、あんたらはうちの事務所に盗聴器仕掛けてるみたいだけど、こっちが盗聴器をあんたらの事務所に付けてるってことは考えないのかね。全部筒抜けだよ。あと、最後に。一番盛況する日曜日に観覧車を貸切るのに莫大な金額が必要だったんだがな、うちにはそんな費用出せるほど儲かっちゃいない。そこで私は一計した。あんたらのボスであるアヤマラネーゼは結構な富豪じゃないか。貸し切るのに必要な額はすべてアヤマラネーゼに請求しておいた。あんたらだけが乗っている観覧車の写真を送り付けたら有無を言うことはできないだろうよ」


 メガホンの電源を切った横田は眼鏡をかけ直し、椅子に腰掛け、ノートパソコンを開いた。会長からの連絡があるまではここで待機であった。画面いっぱいにグラフが表示され、横田は驚愕する。ユールとセネーのタイミングが少し違ければ、俺は億万長者だったのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る