第2話 β01AM・異世界へ

 数日後、日曜日。

 昨日はいつものように床に就き、俺はいつものように目覚めた。

 はずだった。

 が、しかし、そこにあったのは知らない天井だった。

 木製の穏やかな色の天井。

 どことなく香る木のにおい。

 燦々と降り注ぐ日光。

 とても気持ちがよく、二度寝してしまいそうだ。

 いや、それどころではない。

 ここはどこだ?

 なぜこんなところで寝ているのだろう。

 周りを見渡してみる。

 木製の小さな部屋。

 大きな窓から日光が降り注いでいる。

 ベッドのほかには小さなテーブルと椅子が一つずつ。

 いずれも木製。

 それしかない。

 誘拐された、のか?

 いや、それにしては自由に動けるし、窓のある部屋なんて監禁には向かない。

 じゃあなんだ、まだ夢の中か?

 頬を抓ってみる。

 そんなわけない。

 ちゃんと起きている。

 じゃあ何だ?

 いよいよお手上げだった。

 全く心当たりがない。

 せっかくの日曜日になんてことをしてくれるんだ……。

 ん?

 日曜日?

 そういえば日曜日がどうとかってスマホゲームに登録したな。

 スマホを取り出そうとするが、ない。

 部屋にあるのだろうか?

 というかよく見ると格好が変わっている。

 軽装ながら寝間着ではなく普通の服に着替えている。

 腕には何やらボタンのついた腕時計のようなものがついている。

 時間が表示されているし、腕時計で間違いないのだろうか?

 ボタンはA、B、X、Y、三角ボタンが二つの計六つ。

 某ゲームだとAが選択、Bがキャンセル、Xがメニュー、Yがショートカットだったりするけど……。

 試しにXを押してみる。

 すると、ホログラムのようなもので腕時計から画面が広がった。

 ほんとにメニューだった……。

 メニューの内容はこうだ。


「インフォメーション」

「マップ」

「ステータス」

「ショップ」

「ミッション」


 三角ボタンは上下移動のようだ。

 「インフォメーション」を選んでAボタンを押してみる。

 すると、メッセージが表示された。

 Aが決定でいいようだ。


『ようこそ』


 Aボタンで開いてみる。


『「異世界で暮らす日曜日」クローズドβテストへようこそ。ここは異世界です。あなたにはこの日曜日を異世界で過ごしていただきます。夜寝て起きると元の世界へ戻りますので、あしからず。


 株式会社サンデーライフ異世界サービス』


 へ?

 なんだって?

 スマホゲームじゃないのか……?

 っていうかどうなってんだ、これは!?

 異世界!?

 異世界だって!?

 信じられるかよ……。

 でも、この状況……。


『ミッション「ウェルカムメールを読む」をクリアしました。1500コインが付与されました。現在の所持コインは1500コインです』


 !?

 自動音声か?

 ミッション?

 コイン?

 なんだ?

 まあ、夜寝れば戻れるとは書いてあるし、とりあえず今はできることをしてみるか!


『はじめに』


 選択。


『この世界ではモンスターを倒すか「ミッション」をクリアしコインを得ることで生活することができます。モンスター討伐をお楽しみください。


 株式会社サンデーライフ異世界サービス』


 モンスター討伐?

 ミッション?

 どうすればいいんだろう?


『ミッション「インフォメールを読む」をクリアしました。100コインが付与されました。現在の所持コインは1600コインです』


 これが「ミッション」か!

 一旦「インフォメーション」をBボタンで閉じ、マップを表示してみる。

 現在位置の表示と思われる記号と、その周辺の地図が表示された。

 さらに、こうも表示された。


「始まりの草原」


 出現モンスター:ホース


 モンスター!?

 モンスターが出るのか!?

 さらに「ホース」の文字を選んで選択してみる。


「ホース」:馬のようなモンスター。鋭い牙と爪をもつ。


 えっ……。

 これやばいやつなんじゃ……。

 どうしよう!?

 こんなのに襲われたらひとたまりもないじゃないか!?

 いや、落ち着け。

 まだ見ていない情報はたくさんある。

 「ステータス」を見てみる。


 使用可能魔法:


 攻撃魔法Lv1――エッセ・ル

 防御魔法Lv1――ディブ・ロ

 強化魔法Lv1――ガウ・ル

 移動魔法Lv1――メル・クルディア

 転移魔法Lv1――ミッション「移動魔法をLv4にする」をクリア

 治癒魔法Lv1――ミッション「救急箱を一定回数使用する」をクリア


 所持コイン:1600コイン


 魔法?

 魔法が使えるのか!?

 これならどうにかなるかもしれない。

 横にあるのは呪文……か?

 コインってのがさっき書いてあったこの世界での生活に必要なものだな。

 「ステータス」を閉じる。

 次に「ショップ」を開いてみる。


「バッグ」500コイン


 これは購入すべきなんだろうか……?

 ……。

 バッグを選択、購入っと。


『500コインを消費して「バッグ」を購入します。よろしいですか?』


はい。


『「バッグ」を購入しました。現在の所持コインは1100コインです』


 テーブルの上にバッグが現れた。

 バッグの中を開いてみると、たっぷり入った水筒が一本と、救急箱が入っていた。


『ミッション「バッグを購入する」をクリアしました。ショップにアイテムが追加されました。』


 さらに、バッグを購入したことでショップに新たな商品が追加されたようだった。


「朝食」500コイン

「昼食」12時になると購入可

「夕食」18時になると購入可

「飲料水」100コイン

「ランダムマップ解放(1回目)」1500コイン


 「朝食」がある。

 すっかり忘れていたけれど、そういえば起きてから何も食べていない。

 「朝食」を購入してみる。


『500コインを消費して「朝食」を購入します。よろしいですか?』


『「朝食」を購入しました。現在の所持コインは600コインです』


 すると、テーブルの上にお皿に乗ったサンドイッチが現れた。

 いただきます。

 サンドイッチを一つ掴み口に運ぶ。

 うん。

 おいしい。

 あっという間に全部食べてしまった。

 おなかは十分満たされた。

 昼食や夕食にもコインが必要になるから、少なくともその分だけは「ミッション」クリアかモンスターを倒さないと。

 でも、現実世界で一食分の食費が浮くからこれは少しお得かも。

 さて、あと見ていないのは「ミッション」だけだな。

 「ミッション」を選択。

 !!

 とんでもない量のミッション一覧が表示された。

 とても一つ一つは読んでいられない。

 おまけにどの「ミッション」でどれだけのコインが得られるのか書いていない。

 これじゃあどの「ミッション」からクリアすればいいのかわからないじゃないか!


『ミッション「全機能を閲覧する」をクリアしました。100コインが付与されました。現在の所持コインは700コインです』


 ??

 これなら何かしているうちにミッションをクリアできそうだな。

 よし!

 次は魔法を使ってみよう。

 家の中じゃ狭いかな?

 でも外は安全かわからないし……。

 立ち上がり、ドアに向かって、恐る恐るドアノブをひねった。

 そこには一面に草原が広がっていた。

 自分がいる家以外には何一つない、一面の草原。

 モンスターらしきものも見当たらない。

 よし、これなら大丈夫だ。

 外に出て魔法を試してみよう!


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