第7話 第四車両

 次の車両へと扉を開けると、そこはライトブラウンに輝いていた。床も椅子も壁も天井も、艶っぽかった。虹の霧が掛かっているみたいだった。そんな光景に見惚れながら、歩いていると、わたしは滑った。

「あっ!」

 滑って転んで、おしりをしたたかに打った。

「つぅっ……」

 ワックスだ。木造の小学校の大掃除以来、お目にかかったことの無いワックスが、この車両にはベタベタと塗られている。

 あのツンとくる独特の匂いがしている。

 それにしても落ちるだの、滑るだの、受験生には縁起が悪い限りだ。


「何よ!」

 わたしは近くの椅子を支えにして立ち上がろうとする。が、椅子もワックスまみれで滑る。中々立ち上がれない。

 だが、一旦立ち上がってしまえばこちらのもの。アイススケートのようにすいすいと足を滑らす。フィギュアのように回転は出来ないけど。

 幾度かバランスを崩しかけるが、足に力を込めて持ち直す。そう、小学校でもそうやって遊んでいた。

 何とか次の連結部へと辿り着いた。わたしもやればできるじゃない、と自分で自分を見直す。

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