第5話 儚い青~ツユクサ

 時期になれば、その青い花が道端を彩るツユクサは、かなり長い間、私の一番好きな花だった。小学校を卒業するときに、校長先生が、絵に言葉を一言添えた色紙を書いてくれるという事だったので、迷わず、この花の絵を希望したのだった。

 二枚の鮮やかな青い花びらと、それを支えるようなガク。その姿は、決して過剰な自己主張をしてはいないが、どうしても目立ってしまう。昔の少女漫画のヒロインのようである。

 あの頃、そんな事に気付いていたかどうかはわからないが、どうしようもなく、この花が好きだった時期があった。大好きな花だったが、摘んで持って帰れば、あっという間にしおれてしまう。やはり野に置け、なのであった。

 ツユクサの色素は、友禅の下書きに使われる。あんなに鮮やかな青だけれど、水に濡れれば消えてしまうのだ。あくまでも儚い青なのだ。(金属を使って色素を定着させる媒染という方法を使えば色が残るかもしれないが、試した事はない。)

 ちなみに、花粉の観察に、原形質流動の観察にと、中高生向けの実験に便利なムラサキツユクサは、ツユクサの仲間ではあるが、こちらは、ツユクサよりもずっと大きな紫の花と、これまた丈夫そうな葉を備えている。こちらも嫌いじゃないが、二つを並べたら、ダークダックスが歌った「花のメルヘン」の歌詞のように、大きな花と、小さな花、になってしまう。

 ツユクサの花から下に目をやれば、茎にはいくつもの節があり、その部分が節くれだっている。見た目は可憐でも、実は努力と苦労を重ねていることを物語る、美熟女の手足、といったところであろうか。花は儚くとも、長い人生を生き抜こう、という気にさせてくれるかもしれない植物なのだ。

 

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