第3話 醒めない夢 

3.☑


 私と夫は大学卒業後それぞれ守備良く各々の希望する

職についた。


 夫は誰が聞いても知っている大手商社へ、そして私は

市の試験を受けて行政保健師となった。



大学を受ける時看護師を目指して勉強していたし、入学

してからも私の目標は看護師だった。だが就活して

いくうちに保健師に魅力を感じるようになっていった。


 この仕事は土日祝日休みで定時帰りできることが多く

ほかの看護職に比べ、ワークライフバランスが安定しやすいため

働きやすいというメリットがあると知ったことが大きかった。


 結婚後も働きたいと思っていた自分にとっては、本当に願ったり

叶ったりで、私は3年になると早めの就活にとりかかった。


保健師になるには看護師国家資格と更に保健師の国家資格も必要になる。


その為、私はそれまでも頑張っていたけれど、残りの2年はより一層

望むべき目的に向かって勉強に励んだ。



 結婚し、そして子供も持ちたかったから、細く長く働けることが

仕事を決める上で私にとっては非常に重要だったのだ。



 保健師は思いのほか人気があって、保健師の資格を取得していても

保健師として就職できるかどうか最後のさいごまで安心できないで

いた。


 そのため、合格の知らせをうけた時はどんなに嬉しかったことか。


 私に稼ぎがあればこの先万が一、母親が父親と別れたいと言った時

力になってあげられる。



 仕事(から得られる収入)はどんなことがあっても自分を

守ってくれる。


 お金さえあれば大抵のことは解決できるものなのだ、と

還暦を迎えた人間が過去を振り返り悟るようなそんな考えを

まだ22才の青臭い女子であった自分はその頃すでに持っていた。


 

 あって欲しくはないけれど、未来の夫と決別するような日が

来たとしても、仕事が私を守ってくれる……

私やまだ見ぬ子供たちの大きな保険になる……

そういったことを充分理解していたのだった。



 健康で働ける身体があれば……

そして労働の対価に見合う揺るぎない職があれば……


 人生は恐れるに足らず、そんな強い気持ちで私は大人として

社会に船出した。



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