第2話

まさか、森で王子様を助ける事になるとは思わなかった。そもそも、こんな時間に王子がこんな森の中をほっつき歩いているなんて、誰が想像出来ただろう。


時々後ろを振り返り、ハナがちゃんといる事を確かめながら歩く。仕事終わりに私は何で人助けなんてしているんだ。見捨てる事も出来ないから仕方ないんだけども。


「ほら、城が見えてきた。」


「本当だ!あー良かった、朝霧ありがとう。ねえ、一つ聞いてもいい?」


「なんだ?」


「次の仕事って決まってるの?」


「いや、しばらく金にも困ってないし放浪するつもりだったけど。」


「じゃあさ、俺の側近になってよ。勿論報酬は毎月、そうだなぁ……これ位でどう?」


提示された金額が予想をはるかに上回るもので、無意識に「やる」と言ってしまっていた。金はあっても困らないんだよ。天下の回りものだからね。


「ハナーーーー!!!!!」


城の手前、門まであと数十メートルといったところで、どうやら側近らしき男が走って向かってきた。やはり心配していた様子だ。そりゃそうだろう、第三王子とはいえ王子なんだ、突然いなくなったら、しかも夜、心配するに決まってる。


「あー、零々(れれ)!ごめん!薬草取りに行ってた!!」


「それを!迷子!遭難!だと!何回言えば分かるんだ!!大体こんな時間に行かなくてもいいじゃないか!!」


零々と呼ばれたその男は、悲壮感丸出しでこんこんと説教をしている。多分これ、日常茶飯事なんだろうなと思うと、この王子様はとんだ問題児じゃないかと呆れた。


「夜じゃないと効力が薄れるんだよ、ナナメグサは。」


「お話中申し訳ないが、ハナ、私はどうすればいい。」


「……ハナ、こちらの方は?」


「ハルハンテの森で助けてもらった!野良だって言うから、側近にする事にした!」


「はぁぁあ!?そ、そんな簡単に人を拾うもんじゃありません!!!」


零々は頭を抱えてしゃがみこんでしまった。いや、私も金が貰えるならやると言った迄で、貰えないなら別に、やらなくても生きていけるんだけど。


「お、ハナ見つかったんかー。」

「まーたハナの遭難癖出たんだろー?」


「カナデ、ツキ……側近が一人増えることになった……」


「「は?」」


「お前らー、とりあえず部屋に戻ろうよ、なんで城門で立ち話なんだよ。」


来て!と手を引かれ、私はアルシス王国の城に、入ることになってしまった。側近って、とりあえずこの遭難していた王子を守ればいいんだろう?腕には自信があるし、いい金額貰えるし。


「改めまして、俺は側近の零々・アーネスト。この度はこのバカ王子がとんだご迷惑を……」


「いや、大丈夫。気にするな。」


「あたしはカナデ・クライン。同じく側近。まさかハルハンテの森で遭難するなんて、さすがというか馬鹿というか。ありがとう、えーっと……あなた、名前は?」


「私は朝霧。野良だ。」


「ぶふぉっ、あ、朝霧!?」


私の名前を聞いて、飲んでいたお茶を吹き出したもう一人の若い側近が、目を真ん丸くしてこちらを見ている。


「野良の朝霧って、野良界隈じゃ有名な、強い野良だぞ、そんな人を拾ってきたのかハナは!」


「……お前が元々野良だった、って奴か。」


「俺は、ツキ・キサラギ。去年まで野良だった。まさか朝霧に出会えるなんて思ってもみなかった、しかもここで。」


聞いたこともない名前の野良だったのであまり気にしないけど、私はそんなに有名だったのか。


「で、俺今から朝霧連れて第一王子の所に行ってくるから、カナデ、隣の部屋空いてたよね?そこ適当に片付けといて!」


突然の第一王子さんとの面会に、多少体が強ばる。第一王子位なら、さすがに私の顔は分かるまい。

ハナはスキップしそうな勢いで廊下を歩いている。ハナは知らないだろう。私の出生の真実など。

もう、どこにも私という存在を証明するものは、無いのだから。



「にーいさまー!!俺側近もう一人増やしたから!!……わお、父上もいたのか!!」


ハナは、遠慮とか気遣いとか、そういうものを持ち合わせていないのか。もしくはわざとなのか。


「その方が、新しい側近か?」


「朝霧と申します。野良です。」


ガタン、と。突然立ち上がった、多分、国王。私を見て、一言、「ヴェロニカ……!?」と呟いた。


ヴェロニカ。朝霧になる前の名前。もうこの世界から消えた国の、王女だった時の名前。その名を知っている人が、まだこの世界にはいたのか。とっくに捨てた名前なのに。


「父上?」


「いや、何でもない。朝霧、と言ったか。ハナをよろしく頼む。別件で少し話がしたいのだが、時間はあるかね?」


「ハナ、国王と話してくる、いいか?」


「いいけど……俺にはナイショの話なの?」


「後で話すよ。ハナは他の側近達に、ちゃんとごめんなさいしてきた方がいいんじゃないか?」


「はっ!そうだ!後で迎えに来るから、ナイショは無しね!!」


落ち着きのない王子がいなくなって、私と第一王子と、国王の三人になった。


気不味い。

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