都市伝説が人になった理由




暖かい何かに包まれて意識が揺れる。深い深い闇の中からゆっくり引き上げられて自身という物が徐々に確かになっていく。ぼんやりとした頭の中ゆっくりと目を開ける。視界が歪んでいる。手を伸ばして見ると何か透明な硬いものに触れた。何なんだろう、これは。

「……、………………!」

「…………!……………………」

硬いものの外で誰かが言い合っている。何人かが揉み合い1人が押さえつけられていた。そしてその人の反対を押し切るように何かのボタンが押された。

突如私の頭が痛み始める。意識を揺さぶるような強い衝撃、痛み。目覚めたばかりの意識が再び闇の中へと引き摺られそうになる。目覚める事が出来た意識が再びなくなっていく感覚。何が起きているのかわからないそんな中確かだったのは強い恐怖。痛い、痛い、怖い、痛い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

「…………!!」

「……!…………!」

1人が高らかに笑いほかの人達が焦った様子で何かのキーボードを叩く。叩く度に私の痛みと恐怖は強くなる。やめてよやめて、せっかく意識をもてたのに私を消そうとしないで!!

恐怖のままに力を解放する。赤黒いテディベアを私の周りに浮遊させそれをそのまま目の前の硬いものに叩きつける。

私の周りにあった何かが目の前にあった硬いものが壊れると同時に外に出て行く。その勢いのまま私も自分の足で外に立つ。ハッキリとした視界にうつるのは恐怖、驚愕といった表情の中にある一つの笑顔。なんで笑ってるんだろう。不思議に思い口を開こうとしたその時、その人の頭が弾けた。

大きく目を見開く。何故かわからないけど心の奥からなんか激しい……何か感情がこみ上げてくる。これは、この感覚は……怒り?そう怒りだ。私は目の前の彼を殺した白衣の男達に怒っているんだ。

目覚めたばかりの不安定な精神にこんな強い怒りの感情はコントロール出来るはずがなくそのまま沸き起こる何かに身を任せる。数名の命を刈り取るべくテディベアを向かわせた。真っ直ぐに向かっていったテディベアは研究者の命を刈り取っていく。命の散っていく感覚に段々心が暖かくなり何とも言えない感覚が心を満たす。幸福感、快楽、この二つに似た感情に心が満たされ私を操る。白衣を着た男達は逃げ惑い人によってはこちらに向かって攻撃を飛ばしてくる。そんなものは当たらない。当たっても痛くない、あの人の方が絶対よっぽど痛かった!!

自身の衝動のまま能力を使い部屋にいた男達を一掃する。全て死んで、いなくなってしまえばいい。そうすれば私の心は晴れて心が軽くなる。


どれぐらいの時間が経っただろうか。白かった部屋が真っ赤に染まる頃には自分以外誰も動いていない状況だった。いったいこれはどういう状況だったのだろうか。だがそれを説明できる人はいない。そもそも何故自分はここまでの事をしたのだろうか。理解ができない、が。なにかに引かれる。そこに行って私はやるべき事をしなくてはならない。そんな気がした。

「……私はなんなんだろう」

ポツリと呟いた言葉に答えを返す人はいない。仕方ないかなとぼんやり思った頭で外へと歩き出す。部屋を出る直前、何故か私は部屋の中へと視線を向けた。何故だろうそこには何も無かったはずなのに、立ち去るのがおしいと思ったのは、離れたくないと思ったのは一体なぜなのだろう。わからない、わからない……が。何故か、振り返らなくてはならない気がしたし涙が止まらない。私が話してるはずなのに私じゃない言葉が勝手に口からこぼれだした。

「ごめんなさい……本当にありがとう……」

誰の言葉なんだろうか。その言葉を呟いた途端涙も止まり寂しさや足を止めていた感情も消え失せる。消え失せる?何処かに沈んでいったという方が正しいのかもしれない。まあそれはいいだろう。

何処かで私を呼んでいる声がする。私と遊びたがっている声がする。私はその声に答えなくてはならない。私の存在理由のために、私の生まれてきた理由のために。私は行動しなくてはならない。


私は、都市伝説“ひとりかくれんぼ”だから。




飯村「んー、なーんか変な夢見た気がする……?気のせいかな」

ローザ「こんなところで寝ていたのですか。体を痛めますよ」

飯村「へーきへーき。多分大丈夫だよー。というかローザさんどうかしたの?依頼?」

ローザ「特に何かあるという訳ではありませんが泣いていたように見えましたので」

飯村「泣く?あれ、ホントだーまたなんか濡れてる」

ローザ「よくある事なのですか?」

飯村「んー、たまに。最近なかったんだけど……」

ローザ「……ふむ、貴女が目覚めた研究かなにかに関連があるかもしれませんね」

飯村「うえぇ難しい話?」

ローザ「…………貴女は少しぐらい自分に関心を持ったらいかがですか?」

飯村「興味ないもの。あ!ローザさん!お仕事空いてるならご飯食べに行かない?美味しいオムライスのお店見つけたの!」

ローザ「オムライス、ですか?……そうですねあと30分ほどしたら休憩に入れると思いますのでその後でよろしければ」

飯村「やったー!喜んで待つよ!」



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