第28話 オンテムバールな日本人女性、コルネリアの戦い

第18話で、悲劇の日伊ハーフの女性お春について書きました。


しかし、彼女のような人間は例外的な存在ではなく、日本にはたくさんの外国人が居留し、その人々と日本人との間に多くの子供たちが生まれました。


その中に、たいへん興味深い人物がもうひとりいます。


それがオランダ人男性と日本人女性とのハーフだった、コルネリです。

日本名は伝わっていません。



コルネリアの父親は、オランダ人のコルネリ・ファン・ネイエンローデ。

母親の名はスリショ。日本名は伝わっていません。


実はこの父親、大変に素行そこうが悪く、所属していたオランダ東インド会社に秘密で貿易をしては蓄財していました。


やがて露見し、財産は没収。

コルネリアは、母親と引き離され、ジャワ島のバタビアに送られることになりました。



コルネリアはバタビアの孤児院に入れられたようです。


そして成人すると、オランダ東インド会社の上級商務員だったピーテル・クノルと結婚しました。


クノルは非常に裕福な人物で、豪邸をかまえ、奴隷を50人も抱えて生活していました。

コルネリアは裕福な生活を送ったようですが、幸福とは言えなかったようです。


彼女はバタビアで10人の子供を産みました。

しかし何人かの子供は成人する前に急逝してしまいます。

さらに夫のクノルも急死してしまいます。



幸いコルネリアには莫大な財産が遺されました。


その後の生活は安泰かと思われましたが、富というのは幸福とともに悪党も引き寄せるものです。



あるときオランダからバタビアに、ヨハン・ビッターという男が流れてきました。


彼はアムステルダムで弁護士をしていましたが、うまくゆかず、判事をするためにバタビアにやってきました。


判事の給料に満足できなかったビッターは、未亡人だったコルネリアに目を付けました。

財産目当てで彼女に近づいたのです。


ありとあらゆる手を使ってコルネリアの心を掴んだビッターは、コルネリアとの結婚にこぎつけます。



当時のオランダ民法は妻の財産も夫が自由にできるように定められていました。


しかしコルネリアはこのことに気付き、結婚にたくさんの付帯条項を付けて結婚をします。



それにもかかわらずビッターはコルネリアの財産を勝手に使ってしまいます。


ふたりの間で大げんかが始まりました。


この騒ぎはオランダ東インド会社・東インド評議会・オランダ本国の十七人委員会・ホラント州裁判所まで巻き込み、どんどん大きくなりました。


コルネリアは、夫の行為が正当か否か、はっきりさせるためにオランダ本国のホラント州裁判所まで出向きます。


恐るべき行動力です。

日本生まれの女性がバタビアまで行き、さらにオランダ本国まで渡って裁判で夫と争ったのです。


これは当時バタビアだけでなくオランダ本国でも大変な話題になりました。


結局、コルネリアは裁判中の1691年に62歳でこの世を去りました。


たいそう無念だったと思われますが、莫大な財産は夫の手には渡らず、彼女の孫に相続されました。

こころざし半ばで亡くなった彼女にとっては、大きな慰みになったでしょう。



ところで、コルネリアのように自己主張の強い女性を、当時のオランダでは”ontembaar”

(オンテムバール)と言いました。



日本語で「おてんば」の語源です。


日本語には大航海時代の名残でポルトガル語(かっぱ・ぶらんこ・かぼちゃ)、スペイン語(かすてら・おじや・ビードロ)が数多く残っています。


同じようにオランダ語も日本語の中に残りました。


それがたったひとりの女性が送った強烈な生きざまだったと考えると不思議な気分になりますね。


大航海時代においては、金銀財宝や奴隷だけでなく日本語もまた大航海時代の中にあったのですね。


あっ、それから「ピーテル・クノル」で画像検索してみて下さい。

幸せそうな家族の肖像画が出てくるはずです。


中央に並んだ夫婦の向かって右側がコルネリアです。

ちょっと日本人らしい顔をしていると思いませんか?

彼女が一番幸せだった頃の絵ではないかと私は勝手に思っています。


この絵は、今でもアムステルダム国立美術館でみる事が出来ます。

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