異世界を通じて、世界の平和を思う。争うことの意味を思う。

読後に去来するこの思いは、恐らく他の日帰りファンタジーの短編とは一線を画すものであると感じています。
虚しくて、切なくて、それでも未来へ希望を託せずにはいられない、そんな思いでエピローグの行間を希望的想像で埋めようとしている自分がいます。

魔王様へ向けたラブレターから始まるこの物語。
勇者のしたためたこの手紙の中で、彼はなぜまだ見ぬ魔王へ親愛の情を抱いているのか、魔王への切なる願いを綴っているのか。
その答えは、主人公灯和が生きる二つの世界で起きている出来事を紐解くことで見えてきます。

ラブレターにしたためた彼の思いは魔王に届くのか。
彼の願いを魔王はどのように受け止めるのか。

正義を隠れ蓑にして命を軽々しく奪い合うことの虚しさ、それぞれの属する社会に弊害をもたらしてもなお止めることのできない争いへの疑問。
未だ戦争のなくならない現実世界と重なり、彼らの葛藤が胸に迫る良作です。

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