事件

 しかし翌日、事件は本当にあったのだという事を知る。

 校舎は一部青いビニールシートで覆われ、黄色いテープが張られている。

 シートで覆われているのは昨夜僕達が見た怪人が出てきた窓だ。

 あれは確か、校長室。そう言えば悲鳴が聞こえたんだった。


 早速校長先生が殺されたというウワサが飛び交ったが、先生達はすぐに訂正。

 校長先生は無事だ。でも怪我をしたのは本当らしい。

「あれは校長先生の奥さんだったのかしらね?」

 隣の空湖が言う。

 ああ、なるほど。夕べ学校で夫婦喧嘩をして、それで校長先生が怪我をして、奥さんが窓から出て壁を登って飛んでったんだ……、

「って、そんなわけないだろ!」

「わたしのお母さんも宇宙人と結婚したんだよ?」

「それはもういいよ」

 空湖は相変わらず自分を宇宙人の子供だと言って譲らない。もちろん信じていないが、今ではもう慣れてしまい逐一突っ込むのも面倒になった。


 一日中、事件の話題で持ちきりだったが、校長室の外、僕が昨日見た怪人の出てきた窓の辺りに大きな模様が描かれていた、というウワサが出てから事態は一変した。

 あれほど飛び交っていたウワサが突然僕達の耳に聞こえなくなった。


 そう、その模様が宇宙人の文字だとウワサされ、また空湖の仕業という事になっているのだろう。

 外にあるシートはそれを隠すための物か。

 しかし空湖は日曜は一日中僕と一緒にいたのだ。空湖が関係しているはずはない。


 放課後、シートを見ると一部剥がれかかっている。中を見た生徒がいるんだろう。

 僕も好奇心に負けて覗いてしまった。

 前を通り過ぎるふりをしてさっと中を覗き、また何事ない様に歩き出す。

 悪い事に慣れていない僕はそれだけで心臓がドキドキだった。


 ちらっと見ただけだったのでよく見えなかったが、赤い塗料で線が引かれていた。確かに模様というか、こう言っては何だけど宇宙人の文字の様なものが見えた。

 小走りで空湖の待つ校舎裏へと急ぐ。


 空湖は校舎の裏、茂みとゴミの山のようにガラクタが積み上げられた一角にしゃがみ込んでいる。

 その横には空湖よりも小さい女の子、一学年下の二階堂郁子がいる。


 郁子は校舎の屋根裏に巣を作っていた猫を見つけたんだけど、その時に怪我をして入院して、その間僕達が面倒をみる事になった縁以来の猫仲間だ。

 結構な大ケガでまだ完治はしていないみたいだけど、普通に生活する分には問題ないようだ。

 郁子が退院した後、屋根裏ではいつか見つかって追い出されるかもしれないという事でここに移動させたのだ。

 今では親猫も子猫もすっかり懐いている。

「すっかりこの場所にも馴染んだね」

「猫は住みやすい環境作ってやれば勝手に馴染むもんよ」

 しばらく猫達を愛でた後、僕達は帰路につく。

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