僕のホームズ

ミソスープ

果てに見たもの

遂に、遂にだ!!私はホームズを殺した!!

感動。全ての感情が超越し嘔吐となってやってくる。

苦しい。口の中が酸っぱく気持ち悪い。

ベットに横たわるホームズと血の海に混ざる私の吐瀉物。これが殺人。

初めての殺人がホームズで、ホームズもこんな最愛なる相棒に最後の手向けを貰えることを絶対に感謝しているはずだ!!

ああホームズ、世界で一番の探偵ホームズ!!世界で一番の相棒ホームズ!!世界で一番憎いホームズ!!

誰もが殺せないと思ったホームズ!!

どうにかなってしまいそうだ、既にどうにかなってしまっているだろうけど、こんな感覚はたまらない!!

そうだろうホームズ?


その数日間、私はこの感覚を忘れたくないと思い、外にいる時は人目の付かない場所を彷徨く人間を殺しあの感覚を味わうために何度も人を殺す。帰宅すれば家に居るホームズと食事をする。ホームズに綺麗な服を着させて化粧をして、お気に入りだった椅子に座らせてワインを入れてあげる。

どうだいホームズ、その服はこの前新調したばかりで、君のサイズも全部仕立て屋に言って作ってもらったんだよ。このワインだってそうだ。奮発して50年物だ。だがホームズ、僕は人を殺してもあの感覚は全く感じられないんだ。どうしてだろうね。

そのまた次の日も、何度も何人も殺した。だがホームズの時のようにあの昂る感情が出てはこない。ただの肉の塊を切り刻む。精肉店のように処理するような感覚でしかない。虚無なのだ。そして肉を切るのにも飽き、つまらなくなって家に帰る。

ホームズが椅子に座り正装で帰りを迎えてくれる。

今帰ったよ、ホームズ。今日も一日つまらなかったよ。

いい提案があるんだけど聞いてくれるかな?

なぁホームズ、もう一度生き返って僕に殺されてくれ!!

そう言おうがホームズは、綺麗な顔で何も言わず椅子に座り口を開かず、ずっと目を瞑っている。

なぜだホームズ、なぜ喋らないんだホームズ!!君はいつもあの小馬鹿にするような顔で私の声に答えてくれたじゃないか!!なぜ答えてくれないんだホームズ。嗚呼、クソクソクソクソクソ。肝心な時に限って喋らないなぁホームズは!!

君を殺しても殺しても殺したりない、君は死んでも尚、私にこんな感情を持たせるなんて卑怯だ。卑怯過ぎる。

君はいつもそうだ。

私の一番愛する者であり、私の一番憎い者。

頭の中が滅茶苦茶に荒らされて支離滅裂な思考だ。ホームズ助けてくれ。

私はどうすればいいんだ。

崩れそうだ、怖いんだ。

私は死んでしまうのかな?君を置いて死ぬなんて嫌だよ。ほら、早く起きてホームズ。私は今とっても怖いんだ。

君のいない世界で僕はどう生きていけばいいんだ。

君のいない世界はとてもつまらいない。

助けてくれ、起きてくれ、事件だ。

君にしか解決できない。

これも君にとって初歩的なことなんだろう?

阿片を炙り浸っていてもいい。

私が偏頭痛の時もヴァイオリンを弾いてもいい。

だからお願いだ。

「君への逮捕状が出ている。証拠も十分にある。素直に捕まれ。」

レストレード警部ですか。ノックもせずに入るなんて失礼な方ですね。

「まさか君だとはね、優秀な助手にして、最低の人間とはね。そしてホームズが言った通りになるとは...」

黙れ、何がホームズだ。ホームズはここに寝ているし君は冷静な判断もできなきなってしまったのかな。それで警部だなんてご立派だ。三下共に命令してこのような場で自分は美味しいところを貰っていい金も貰うなんて、最低な人間はどちらだろうかね。

「そんな言葉で私が挑発に乗るとでも。さあ、さっさと連行するぞお前ら。」

離せ!!僕の邪魔をするな!!!

まだ味わっていないんだ!!

ホームズを殺した時のあの感覚がまだなんだ!!

「君はいつからこんな人間にまで落ちたのかね。」

なぜその声が今、私に聞こえるのか。

「不思議な表情もできるんだね君は、長い間一緒にいたがそこまで僕も見れていなかったのかな?」

なぜだ。

「さぁ、大人しく警部の言うことを聞いた方が身のためだ。と言っても裁判の結末なんてみんなわかりきってるだろいけどね。」

なぜ生きている、ホームズ。

「なぜって?僕がこうなるだろうと推理したからさ。あれも我ながらよく出来たと思うよ。まぁ君のことだから僕を一撃で殺して大切に保存するだろうってところも。良かったね人形の僕。もっとも切り裂かれていれば正体もばれていたかもしれないし。」

血も出た。君は私が殺したに違いないだろう!?

「あれは豚の血だよ。君は冷静さを失っているね。普段の君ならもっと疑いをかけるような懐疑主義ではなかったのかな?でもこれだけよく出来た人形なら僕も騙されそうだね。ははは。」

じゃあ今ここで君を殺すまでだ!!

警官の腕を振り払い僕は靴に隠してあったナイフでホームズの場所まで駆ける。

瞬間、小さな爆発音と共に僕の体は重くなった。

痛い痛い。なんだこの痛みは。なぜ血が出ているんだ。

「最愛だった助手よ。君は越えてしまったんだ。それがいけなかったんだよ。」

ホームズ、私は死ぬのかい?

「これは償いだ。」

そうか、死ぬんだね。

最後に教えてほしい。なぜ私の今までの行動を読めたんだい?

「長く側にいた助手の行動を見ればなんでもわかる。初歩さ。」

息も少しづつ苦しくなってきた。

だんだんと目も霞んでゆく。

ああ、ホームズ。


「ホームズ、これでいいのか?」

「裁判で他の者に晒されながら死ぬよりはマシさ。」

「今回のことはこちらで処理をしておくが、あまり目立ったような行動は控えるようにしてもらうよ。これも君のためだ。」

「ああ、わかってるとも。」

ホームズは冷たい体で目を開けたまま息途絶えてしまった彼の目を瞑らせる。


「彼もこのように僕を見ていたのかな、血の海に横たわる最愛なる相棒の姿を。」

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僕のホームズ ミソスープ @Miso_Soup

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