挨拶


 異常者サイコパス。この男を言い表すには、その表現しかなかった。こんな平場で、平気で人を殺せる者を、それ以外の言葉では。


「はっ……ぐっ……」


 サンドバルも、護衛たちも怯えている。怯えまくっている。


義母かあさん……こいつら、誰?」

「ひっ……ひいいいいいっ! さ、サンドバル! な、何をしてるの早く殺しなさい!」

「ま、魔杖持ちなんて聞いてねぇぞ!?」

「そ、そ、そんなの私だって!」


 確かに半年前は魔力がゼロだったのだ。不能者は、どんなに頑張ったって不能者だ。テナ学院でいくら修練したとしても、魔法が使えるようになるなんてことはない。


 そのはずだったのだ。


「……まあ、いいや。義母かあさん、後でね」

「ひっ……ぐっ……ぐおええええええええろろろろろろろろっ! おえろろろろろろろらろろらろっ!」


 その言葉に、ヘレナは壮絶な嗚咽に襲われる。胃液が全て逆流するような気持ち悪さ。吐き気を通り越して、直で吐いた。


 一方で、ヘーゼンは自身の魔杖を用心棒たちに向かって構える。


「こ、この……殺ってやる! 殺ってやるよおおおおおおおおっ!」


 ナイフを持った用心棒が叫びながら襲いかかってくる。


 だが。


 軽やかに後ろに飛んで、魔杖を縦に振ると、ナイフを持っていた腕が真っ二つに切断される。


「うんぎえええええええええええええっ!」


 断末魔の叫びとともに。


 ガン! ガンガン! ガンガンガンガン! ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン! ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン! 


「……っ」


 まったく同じ光景。デジャヴかと思った。ヘーゼンは切断された腕をまたしても、何度も何度も用心棒に向かって叩きつける。


「……なるほど。合格」


 そうつぶやいて。気を失っている用心棒の両足を魔杖で数回切り刻む。


「ふむ……骨密度65。筋肉62に対しては、距離は5メートルが限界。魔力量が微弱だと斬れない時がある。そして……」


 ヘーゼンは魔杖を振るって、用心棒の首を飛ばす。


「筋肉が硬直している場合は、注意しなければ」

「ひっ……ひっ……ひっ……ひいいいいいいっ!」


 サンドバルが奇声をあげて腰を抜かす。涙、汗、糞尿、全ての液体を垂れ流しながら。


「ちょっと! ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとおおおおっ! 早く……早く殺してえええっ! なんとかしててててええええええっ!」


 ヘレナはサンドバルの元へと駆け寄って何度も何度も揺り動かす。だが、本人の眼光は恐怖で震え、怯えて、戦闘すら意欲が皆無だ。


「さて……」


 だが。目の前にいる黒髪の青年は、そんなことは構わずに近づいてくる。


「サンドバルさんでしたっけ? 義母かあさんの恋人ですか?」

「ひっ……許して許して許してっ! た、頼むから」

「3秒以内に答えないと殺す」

「……っ」


 イカれ過ぎてる。


「そ、そうです! 恋人です! だから……どうか、許してください! お願いします! 頼みますから……」


 サンドバルは、糞尿が散らばった床に、何度も何度も土下座をする。


「……そうか。義母かあさんの恋人か」

「そ、そうなんです! ヘレナとは、本当に愛し合っていて……なあ!」

「……っ」


 なんて答えれば正解!?


 わからない。わからなさ過ぎる。どうすれば殺されないのか。なんで言えばいいのか。そもそも、許されるのか、許されないのか。


 もう……全て、自白するゲロるしかない。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 愚かな私は、この恋人サンドバルにあなたを殺すよう依頼しました! 後悔してます! 本当に後悔してます! どうか……どうか今回だけ許してください」

「……義母かあさん」

「ひっ……ぎいいいっ!?」


 ヘレナは髪をガン掴みされる。ブチブチブチっと、毛根が数十本ほど抜けて、あまりの痛みに身を捩る。


「うるさいから、僕の質問だけに答えてね」

「は、はいいいっ! ひい! はい! はいいいいっ!」

「サンドバルさんとは、結婚するの?」

「け、結婚……け、結婚!?」


 そんなすぐには。


「3秒以内に答えないと殺す」

「します! します! 絶対にします! しろと言われたら、します! だから、だからぁ! 許してぇええええ!」




















「……そうなんだ。じゃ、義父とおさん。これから、よろしく」

「えっ?」






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