代償


 その日の授業。ヘーゼン、カク・ズ、エマがクラスに入ると、全員が白い目を浮かべていた。


「ね、ねえ。どうしよう?」

「なにが?」

「なにって……見られてるよ。めちゃくちゃ軽蔑した視線で」

「ああ。つまらないよね」

「つ、つまらない?」


 エマがビビりながらも言っている意味が理解不能過ぎて尋ねる。


「うん。だって、もっと派手に因縁をふっかけてきたり、陰険に嫌がらせするかと思ってたのに。それすらできないんだから」


「「「「「……っ」」」」」


 生徒たちの反感は、これ以上ないくらいに一致した。


 しかし、ヘーゼンはそんな視線など、ミジンコほども気にすることなく、席へと座る。


「気にしないことだ。なにも言わずに、睨みつけるなんて、無力な弱者がよくやる、ささやかな抵抗というやつだ」

「ちょ、ちょっと! あは、あははは」


 ミディアムヘアの美少女が愛想笑いを浮かべるが、すでに、時遅し。完全にヘーゼンの一味扱いをされていた。


 そんな中、セグゥアが入ってくる。すると、反ヘーゼン連合の生徒たちは、こぞって彼に向かって群がる。


「大丈夫? 本当に災難だったよね」「ふざけんなって感じ。マジであいつ、あり得ないから」「もう奴隷にされちゃってるの?」「私はセグゥアの味方だからね」「私も」「俺も俺も」「あいつはマジに死ねばいいのに」「なー」「ねー」


 ヘーゼンに、敢えて聞こえるように。口々に飛び交う罵詈雑言。それを、セグゥアが慌てて制止する。


「い、いや。違うんだ。奴隷契約なんだけど、あれから解除されたんだ。さっき、バレリア先生にも説明してきた」

「えっ!?」

「その……あれから結局、ヘーゼン君は、謝ったら許してくれてさ。だから、この通り自由の身だ」


 セグゥアは満面の笑みを浮かべる。


「な、なーんだ。よかったじゃない」「でも、酷いわ酷いよな」「そうだよね。決闘も正々堂々でもなかったし」「だいたい卑怯過ぎて引いたよ俺は」「俺も俺も」「あり得ないよねマジで」「最悪」「死ねばいいのに」


「文句があるなら、相手になるよ?」


「「「「「「……っ」」」」」」


 シーン。


 圧倒的な嫌われ。圧倒的な恐れられである。


 一方で、セグゥアはヘーゼンの方に向かって、深々とお辞儀をする。


「今回は、本当に申し訳なかった」

「いいんだよ、過ぎたことは。これからは互いに、実力を研鑽し合える、いいクラスメートでいよう」


 ヘーゼンは手を差し出し、セグゥアはガッチリと握手する。


「「「「「「……」」」」」


 当人同士が仲直りしてしまってので、非難していたクラスメートたちは矛先を失い、手持ち無沙汰になる。


 その時。元セグゥアの取り巻きたちが入ってきた。


「お、おはよう」

「「「「「「「……」」」」」」」


 生徒たちはガン無視して席へと座る。


「ね、ねぇ。どう言うことかな?」


 エマがボソッと尋ねる。


「ああ。代償行動だよ。僕とセグゥアが仲直りしたから、次の標的は裏切り行為を行った、彼らだと言うことだ」

「そ、そんな……」

「仕方がないね。行動には責任がつきまとう。子どもだってそれを知らないでは済まされないと言うことを、彼らは知るべきだった」

「……」

「エマ。弱者は強者には立ち向かわない。より弱者を痛めつけるだけだ。これから、彼らが卒業するまで、そのことを思い知ることになるだろう」

「なんとか……できないのかな?」

「なんとかする義理も、必要も、気も起きないね。彼らはセグゥアとは違って利用する価値もない。そんなことをしてもなんのメリットもない」

「……」

「僕のやることは1つ。ただ、己の実力を磨き続けること。エマやカク・ズに危害がない限り、僕の周囲に起きているあらゆる事象に関して興味はないよ」


 そう言い捨てて。ヘーゼンはサッサと授業の準備に入った。

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