作戦


          *


 その頃、セグゥアは焦っていた。負ければ、一生奴隷。そんな重すぎるペナルティはまったく想定していなかった。


 当然、ヘーゼンの実力は把握している。両手持ちで、複属性魔法が使える希少な魔法使いだが、威力はセグゥアに遠く及ばないはずだ。


 ……なのに、なんなんだあの自信は。


「クソッ!」


 突然、教室の中で、セグゥアが机に手を思いきり叩きつける。瞬間、周囲にいた取り巻きのメンバーたちが、ギョッと彼の方を見る。


「ふぅ……ふぅ……」


 しかし、当の本人は、周りの視線などに気づかず、目を血走らせながら平静を取り戻そうと、必死に深呼吸をしている。そして、取り巻きの1人が、なんとか場を和ませようと、セグゥアに向かって笑いかける。


「気にするなよ。どうせ、強がってるだけだ。ハッタリだよ」

「お前になにがわかる!?」

「……っ」


 そう叫んだ途端に、セグゥアはハッと我に返った。


「あっ……っと、そうじゃなくて。例え小虫でも、万が一に備えて全力を尽くすべきだと俺は言いたいんだ」

「そ、そうか」


 取り巻きの1人は、苦笑いを浮かべ、セグゥアに顔をそむけた。その時、グループ内になんとも言えない白けた雰囲気が漂う。その空気をなんとかしようともう1人の取り巻きが恐る恐る話しかける。


「しょ、勝負はどうするんだ?」

「……まだ、考え中だ」

「こっちで考えられるんだろう? じゃ、楽勝じゃん。めちゃくちゃ、あっちに不利なルール押しつけてやろうぜ」

「ほら、セグゥアも言ってたじゃん。指一本で戦わせるとか? あれ、名案だと思うんだよ」

「なあ。あれで、どうやって勝つんだって話だよな、あのハッタリ野郎」

「いっそのこと、手足を縛って戦わせるか」


 取り巻きの面々は、自分たちに有利すぎるルールを提案して、ワイワイと、盛り上がる。


 その時、セグゥアが拳をガンと机に叩きつける。瞬間、血が滴り流れ、周囲も一瞬にして会話をやめる。


「そんな卑怯な真似できる訳ないだろう!?」

「……」


 またしても、不穏な空気が漂う。


「あの……俺、一つ提案があるんだけど」

「……」


 そんな中、オズオズと、取り巻きの1人であるマードックが手を挙げる。ふてくされて答えない、セグゥアに小さくため息をつきながらも、淡々と話を進める。


「場所なんだけど、森にしないか? あそこだったら、いっぱい罠張れるだろう? 俺たち、手伝うぜ?」

「だから、そんな卑怯な真似――」

「でも、負けたらお前、一生あいつの奴隷だぜ? それでも、いいのかよ?」

「……だが」


 痛いところを突かれて言い淀むセグゥアに、マードックが畳みかける。


「いいか? これは、対等な決闘だ。あいつは、時間も場所も方法もこっちに指定させたんだ。代わりに、ペナルティはあっちで決めた。正直言って、舐められてるだと思うぞ、お前」

「なんだと!」

「お、俺じゃなくて、ヘーゼンがそう思ってるってことだよ」

「くっ……」

「だからさ。思い知らせてやればいいんだよ。あっちが舐めプしてくるなら、こっちは徹底的に利用してやればいいんだよ。で、卑怯だなんだの言い出したら、笑ってやればいいのさ」

「……」


 確かにマードックの言うことも一理ある。どのみち、勝てば相手を奴隷にできる。こちらを舐めた代償は、いくらでも後から回収してやればいい。


「わかった。多少、納得のいかない部分はあるが、君の提案を受け入れよう」


 そう言って、セグゥアは笑顔を浮かべる。この男が提案してくれたことで、こちらが有利のルールを決めることへの抵抗感が薄れた。


 完膚なきままに叩きのめしてやる。


 奴隷にしたら、どうしてやろうか。当然、ヤツが言ったとおりのことはやってやる。土下座させて、靴を舐めさせて、犬みたいに鳴かせて……豚の真似をさせて公衆の面前で歩かせてやろうか。


「なあ、みんな。セグゥアのために、俺たちでルールを考えないか? あんまり、あからさまにやると、観客がシラけるから、いい感じにこっちが有利になるようにしてさぁ」

「あ、ああ。いいけど」


 取り巻きの生徒たちは互いに顔を見合わせて答える。


「じゃ、決まりだ。なあ、セグゥア。手伝うから、勝ったら、俺たちにもあいつを遊ばせてくれよ?」

「……まあ、そんなことは本来必要ないけど、君たちがやってくれるんなら任せるよ」

「ああ、もちろん。俺たち友達だろう?」


 マードックは満面の笑みで答えた。


 

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