友達


 入学式を終え、生徒たちは教室へと入った。ヘーゼンのクラスは、三組。生徒数は40人。概ね貴族たちは複数の貴族グループで固まり、少数の平民たちが1つのグループに固まっているような図式だ。


 そんな中、ちらほら場に馴染めぬボッチの一人に、ヘーゼンはいた。


「……」


 誰と話すでもなく、本を読みながら、『群れるのは弱い証拠』と強がる、魔力0ギリの虚弱生徒。

 そんな中、隣にいたもう一人のボッチ生徒が、意を決してこちらに笑いかけてきた。


「お、おはよう」

「……おはよう」


 ぎこちない挨拶。ヘーゼン自身も、共に高め合う仲間は欲しいところなので、なんとか溶け込みたいところだ。だが、融和、協調、親和などとは無縁な生き方をとってきた彼にとっては、結構難儀なミッションであった。


「わ、私の名前はエマ。あなたは?」

「……ぼ、僕はヘーゼン。よろしく」


 ぎこちない自己紹介。偽りの笑顔。声をかけてきた子は、ブラウンショートヘアの可愛らしい女の子だ。ただ、真面目で、茶目っ気のかけらもなさそうである。性格はよさそうだが、気弱そうだ。豪奢な服装を見る限り、貴族である。それでも、ボッチということは、なにか事情があるのだろうか。


「いい天気だね」

「ほ、本当に」


 会話の鉄板、天気の話。以前の学校の教科書で『会話に困ったら天気の話をすればいい』と書かれていて、相当バカにしていたが、今は絶賛活用中である。


 当たり障りのないことを話すことによって、『自分は話しても大丈夫な人ですよ』アピール。そもそも文化や習慣が違う彼らと話せる話題は少ない。あいにく、世間話という無駄な時間をこれまで過ごしてこなかった。


 しかし、学校生活をつつがなく過ごすためには、友達(利用価値のあるクラスメート)の一人ぐらいは必要であろう。そのためには、多少のくだらないトークには食らいついていくつもりだ。


「なんにしても……これから、よろしく!」

「は、はいっ!」


 ヘーゼンは満面な表情で握手をした。


 そんな中、教室に教師が入ってきた。真紅の髪の女性でかなりの美形だった。20代後半と言ったところだろうか。彼女は、教壇を軽快に叩き生徒たちの注目を集める。


「やあ、諸君。私は三組の担任であるバレリア=ヴァロンだ。完全実力主義のテナ学院にようこそ。ここでは、貴族だろうが平民だろうが関係ない。弱肉強食こそが至上。仲良くするのなら、自分の実力をより向上させるための友人関係を育みたまえ」


 バレリアは、ニッコリと笑う。その様子に、ほとんどの生徒たちは力強く頷いた。さすがは、この校風を選んで受けた彼らは、自らの腕には少なからず覚えがあるようだ。


「弱い者イジメはよくないが、議論、喧嘩や決闘は許す。そうやって、どんどん魔法の腕を磨いていってくれ。ただし、殺しはダメだぞ」


 悪戯っぽい微笑みを浮かべ、ウインクをする。どうやら、この学校では頭でっかちの勤勉生徒を育てる気はないようだ。


「クク……本当に、僕向きの学校で嬉しいよ」


 現在、絶賛最弱であろうヘーゼンも不敵に笑う。目下の武器は、容赦のない狂気のみ。もしも、喧嘩を売られたら、迷わず眼球に指を突っ込んで失明させようと決心しているキチガイ魔法使いである。


「……」

「エマ、どうした?」


 下を向いてうつむく彼女に、ヘーゼンは優しく声をかける。戦闘は苦手なのだろうか、多少は戦力になると思っていたが、どうやらアテが外れたようだ。


「私、勉強が好きなの。人が傷つくのは、見たくない」

「……そっか。優しいんだね。でも、じゃあなんでこの学校を?」

「父がここの学院長なの。だから、ここ以外は、受けさせてもらえなくて」

「……なるほど」


 ウォルド=ニア。10代の頃から千を超える戦場を駆け巡った正真正銘の猛将。元々は、帝国の叙勲一等の四伯だった人物である。30代を過ぎて現役を引退し、このテナ学院を建てた。それから、10年も経たないうちに、ここを帝国の名門校と並びたつ存在とした。


 多少、職権濫用と言われようと、子どもに入って欲しいと思うのは必然であるような気もした。


「だが、噂に聞くウォルドの娘ならば、君も非凡な魔法使いなのだろう?」

「……でも、私は」

「そうか……いいさ。人には、それぞれ向き不向きがある。エマ、大丈夫だ。君は僕が守ってやる」


 ヘーゼンは、いつも以上に爽やかな笑みを浮かべて囁く。端正な輪郭。シミ一つない肌。誰がどう見ても美少年に微笑まれて、顔を真っ赤にする茶髪美少女。


「えっ……そ、それって」



















「だから、僕に魔法を教えてくれ」

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