1-2 自己紹介と決意

僕、音無 雫は、自分から行動を起こした時は大丈夫なんだけど、それ以外の時は、とてもヘタレなんです。


そして今現在、ヘタレ絶賛発動中です。


何故、ヘタレを発動してしまったのかというと、目の前で寝ていたあるものが起因していた。


そのあるものとは、素っ裸の少女を指しています。


さっきも言った通り、自分から行動を起こした、つまり自分から少女の裸を見るのは、別に何も思わないのだが、これに関しては自分から行動を起こしていないから、心臓がバクバク、脈打ってます。


こればっかりは、仕方がないと僕は思います。


だって、素っ裸の少女が僕の腕を枕にして眠っていたんですから。


もし、僕がロリコンなら、もうヤバイです。


何がヤバイのかは、言いませんけども。


この状況を楽しめるほど、僕は肝が据わっていません。


なので、起こします。


僕は少女の裸を見ないようにする為に目を瞑りながら、「おーい、お嬢さん。起きてくれないかな? こんな格好でいたら風邪引くよ? いいの? 」 と体を揺らしながら言った。


「……」


「反応無しか」


それにしてもこの子の寝息は静かだなぁ。僕の妹の優香は、いびきをかいてうるさいのにさ。


もうちょっと寝させてやるか。


眠ってる間に、ご飯を作ってやろう。


料理は得意だからな。


まぁ、家事全般得意なんだけども。


……え、何? ますます、女の人っぽいって?


よく言われます。


だがしかし、僕は男です。


ちゃんと、男のシンボルも付いているんですよ。


それで、ご飯を作る為に、少女の頭を上げて、腕を抜こうとしたのだが、止められた。


この「……ひとりにしないで」という言葉によって。


多分、この少女の両親は、既にこの世にはいないんだって事を、この時僕は悟った。


だから、僕は少女の頭を上げていた左手で、少女の頭を撫でてこう言った。


「僕は、どこにも行かないよ。君とずっと一緒にいるよ」と。


そうしたら、少女の顔が少し緩んだ様な気がした。


でも、流石にこのままにしているのは、いろいろとまずいと思ったので、やっぱり起こす事にした。


僕は少女の肩を持って、思いっきり揺らす。


もう、声をかけても意味ないなと思ったので、物理的に目を覚まさせようとした。


頭をぐわん、ぐわん揺らしてるのに、起きる気配全く無し。


こんなに起きないもんなのかな?


妹にした時は、すぐ起きて、蹴り飛ばされるのに。


揺らしても起きないなら、こちょこちょしてみましょうか。


僕は、左手を少女のお腹の方に持って来て、こちょこちょした。


そしたら、すぐに起きた。


どうやら、この少女はくすぐりに弱いらしい。


「起きたか?」


「だれ?」


「えー、覚えてないの? ……あれ? まだ名前教えてなかったっけ。」


「うん」


「僕の名前は、音無 雫だよ。それで、君の名前は?」


「わたしは、ナフタリア?」


首を傾げて言ったのを見て、僕は可愛いと思ってしまったんだけど、これも仕方ない。


うん、仕方ないんです。


それと、名前を教えてくれたのはいいんだけどさ、何で疑問系なんだろう。


確証が持てていないのかな?


ま、別に何でもいいか。


「それで、ラフタリア。ラフタリアは何か食べたい物あるか?」


「なんでもいい。わたし、りょうりのことなにもしらないから」


「そうか。なら、無難にカレーでも作ってみるか」


「かれー?」


「うん、カレー。僕の住んでいた所で知らない人がいないくらいの有名な料理だよ」


「わたしはしらなかった」


「そうなんだ。でもこれから知っていけばいいよ」


「うん」


「じゃあ、必要な物買ってくるから、お留守番よろしくな」


「いや」


「一緒に行きたいのか?」


「うん」


「別に構わないんだけど、それなら服を早くきてくれ」


そう言うと、ナフタリアは今の自分の格好に気付いたのか、「しずくのえっち」と言ってきた。


「ごめん」


それを言われたら、こう言い返す事しか出来ません。


僕は、ナフタリアが着替えるまで、目を手で隠し、後ろを向いていた。



この世界では、言葉は通じるが、文字が読めないから、買い物をするのは一苦労です。


理由は、商品の値段が店員に聞かないと分からないからです。


それに、まさかナフタリアも文字が読めないときました。


元々、期待はしてなかったんだけどな。


これはもう、誰かに文字の読み書きを教えてもらうしかありません。


「なぁ、本当に読めないのか?」


「うん。うまれたときから、あのおりのなかにいた。だから、わからない」


ほら、この通り。


ナフタリアは、この通り生まれた時から、奴隷として売られていたから、文字が読めないらしい。


それが一目で分かるくらいに、ナフタリアの手首、足首には、手枷、足枷の跡がくっきりと残っていた。


跡は、跡形なく僕が消した。


あんな醜い跡、女の子には不必要な物だから。


治癒術師には、ちょちょいのちょいだったけれど、ナフタリアはとても喜んでくれた。


僕は、それを見て嬉しく思った。


奴隷だけじゃない、ナフタリアは家族の愛情も知らないときている。


こんな幼い少女が、こんなにも残酷な道を歩んできた。


僕だったら耐える事が出来ないだろう。


だから、もうナフタリアには、二度とこんな辛い事が起きないようにしないといけない。


その為には、強くならなければ。


ナフタリアを守れるように。


だから、僕は冒険者になろうと思う。


「どうしたの? しずく」


「え? 何?」


「しずく、つらいの?」


「どうして?」


「わかるの、わたしには。しずくが何を思っているのか」


「じゃあ、僕が冒険者になろうとしてる事も?」


「うん」


「そうか」


……あの奴隷商人め。


奴隷刻印に、主人の考えてる事が自分の事のように分かる機能があるとか一言も言ってなかったじゃないですか。


「わたしも、しずくとつよくなる」


「ダメだよ! ナフタリアはこんな危ない事しなくていいから!」


「しずくだって、あぶないよ。しずくもわかつてるんでしょ?」


「っ!」


どうやらナフタリアには、僕の事が筒抜けの様だ。


僕の職業は治癒術師。


治癒術師は、どんなに頑張ったって強くなることが出来ない。


回復にしか能が無いから。


治癒術師は、仲間が居るから輝くことが出来る。


それを、僕は痛いほど実感した。


でも、治癒術師だって戦えないってわけじゃない。


【精霊の加護】があれば、僕は、治癒術師は強くなる事が出来る。


強くなるって言っても、全職業の中では弱いのは変わりないんだけどさ。


それは、どれだけ努力したって覆らない。


でも、【精霊の加護】は治癒術師にとって、最も重要な加護。


【精霊の加護】 治癒術師の回復魔法効率上昇。全スキル習得可能。MP、魔力ステータス上昇。


【精霊の加護】を授かる事によって、治癒術師としてのスペック上昇、さらに全スキル習得する事が出来るから、弱いステータスを少しは補う事が出来るだろう。


だから、僕は精霊の森と呼ばれる場所に行こうと思ってる。


そこに、大精霊と呼ばれる精霊が居るという噂があるから。


「しずく、ここじゃないの?」


「ん?あぁ、ここだ、ここだ」


この話は、また後にしよう。


今は、ナフタリアに美味しい料理を食べさせてあげる事だけを考えよう。



「いやぁー、買った、買った」


「……」


「どうした、ナフタリア?」


「しずくは、わたしのこときらいなの?」


俯かせていた頭を上げて、涙目で僕を見てきた。


「急にどうしたんだ?僕は、ナフタリアの事嫌いじゃないよ」


「よかったぁ。しずくがどこかにいきそうなきがして」


「僕は、どこにも行かないよ」


「ありがとう、しずく」


この時、初めてしずくが僕に、年相応の笑顔を見せた。


この笑顔を守る為に、僕は強くなろうと決意した。



















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