第8話「星祭」

 神社へとつながる一本道は、山を登る手前から石畳が敷かれており、今はその両脇に様々な出店が立ち並んでいた。天候にも恵まれ、夕闇が近くなってきた空に雲はまばら。行きかう人々は多く、浴衣姿のものもちらほら見られ、いずれも楽しそうに今宵限りの店を見て回っている。


 そんな賑やかな喧噪を、少し離れたところから観察する裕哉と灯里の姿があった。場所は出店が並び始める手前、救護所として広めのテントがはられ、いくつもの長椅子が置かれているスペースである。


「感度チェックだあかり」

『あーあーてすてすです』

「良し、問題ないな」


 警備と書かれた腕章を腕に着けた二人は、小ぶりの無線機とイヤホンを手に、何やら作業を行っていた。星祭りの行われている神社にて、守護者という肩書を持つ海塚のおかげで、蒐集部のメンバーは警備の人員として現場にやってきていた。


 星祭り。一般的に言う七夕の祭りは、ここ月波町では古くより祖霊信仰の祭儀として行われていたらしい。選ばれた「棚機女たなばたつめ」、つまり海塚が神の力を借り受け、秋の豊作を祈り、人々の穢れを祓うもの、だった。


 今年はその巫女の力を盛大に前借りしたうえに、乱れた地霊と穢れを祓いきれていないため、穢れを嫌う神との接触は果たせない。そのため、祖霊を形代かたしろに宿し、川に流して水神を監視するくらいのものではあったが、それでも祭事は祭事。いくら町の守護を任されている海塚とはいえ、妖一匹によくこんな融通が通せたものだ。


 裕哉はそこまで考え、そもそもそこまで海塚の負担が増えたのは自分のせいだったかと、他人事のように考えるのをやめて心の中で海塚に謝罪した。


『櫛見君、聞こえてる? 櫛見君? ……あれ櫛見君? え、聞こえてない? 私壊しちゃったかしらこれ。ど、どうしよう』


『ああ、聞こえてるよ。すまん他のことをしていた』

『あ、良かった。私こういうの不慣れで。とりあえず結界の最終確認はOKよ』


 機械音痴の海塚は終始不安そうな声色で無線を扱っている。普段聞けない彼女の狼狽えた声に、裕哉としては悪戯心がくすぐられるのだが、さきほど心の中で謝罪したばかりだ。ほどほどにしておこう、と心の中で三度の謝罪をする裕哉であった。


『兄様? 他のこととは……。あ、二人が来ましたよ』


 隣で訝し気に裕哉を見ていた灯里からの無線で、裕哉も海塚も気を引き締める。裕哉があげた視線の先に、並んで歩く三嶋と吉岡の姿があった。

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